第1話 マテリアルクリエイター(1)


 外から光が差し込んできた。


 レナはまぶしい朝日に照らされて、目を覚ました。


 体を覆っている厚手の布をどけて、体を起こす。


 レナは背伸びをすると、ベッドから立ち上がり、外を眺めた。


 空気はすっきりとしていて、たまに入ってくる風が心地よい。


 今日はリサが帰ってくる日だ。


 今夜は友人達と共に、パーティーを開催する日だ。パーティーといっても、一般の平民が自分の家で開催する程度のパーティだが、今日はリサが帰ってくる特別な日になるだろうと胸を躍らせた。


 パーティーの準備をしなきゃと、自分の部屋から出ると、同居人のティナの部屋を通り過ぎた。そして、今は空き部屋となっている部屋の前で立ち止まると、大きく深呼吸をした。そして「よし!」と気合を入れた。


 階段を駆け降りて、身支度を整えに洗面台へと向かう。水で顔を洗い、薄手の布で顔を拭くと、鏡の前でブラシで髪を整えた。


 鏡に映るのは、真っ赤なリンゴのように赤く、ややくせっ毛の髪を背中まで伸ばし、前髪は眉毛くらいまでで、切り揃えているというよりは、自然に伸びたといった感じ、そして目は大きく、どこかお転婆な雰囲気が感じられる少女だった。


 身体はやや華奢な印象があるが、背筋はピンと伸びており、歩いていても腰が座っていて、身体の訓練を受けているように感じる。そして、左腕が機械仕掛けの義手であった。


 レナは長袖でロングスカートのワンピースに着替えると、義手の指をまるで本物の指のように滑らかに動かし、「今日も良好!」と笑顔を作った。


 レナは、昨日の夕食の残り物の焼いた肉と卵を焼いたもので、サンドウィッチをつくり食べ始めた。


「今日の夕食、何にしようかなぁ、やっぱ肉よね」


 レナは食べながら歩き始め、外を眺めながらつぶやいた。


「食材を探しに行ってみるかね」


 レナは残りのパンを一気に口に放り込むと、数回噛んだだけで一気に飲み込んだ。


「ぐっ……ガハッ」


 レナはむせてしまい、コップの水を一気に飲み干した。


 二階の部屋の扉が閉まる音が聞こえた。同居人のティナが起きてきた。


 ティナはレナより五歳下で、今年で十二歳になる。


 黒にやや茶色がかった髪を肩の位置まで伸ばしており、前髪は眉毛のところで切りそろえていた。


 顔つきは全体的に優等生といった印象がある。


 まだ眠たそうに目をこすりながらレナのところへ歩いてきた。


「おはよ、ティナ」


「おはようございます、レナさん」


 レナさんと呼ばれた通り、レナとティナは姉妹ではない。


 ある事故がきっかけで二人だけで同居することになった。


「朝ごはん、パンと昨日の残りでいい?」


「はい」


 レナは焼いた肉と卵、そしてパンを大きめの一つの皿に乗せ始めた。


 あ、そうだ、とレナはティナの顔をチラっと見ながら話しかけた。


「ティナ、今日はリサが施設から出てくる日よ」


「……」


 ティナは、何か言いたそうな顔をしているが、じっと黙り込んでうつむいた。


 レナは焼いた肉と卵を乗せた皿をテーブルに乗せ、ティナの方へと視線を向ける。


 うつむいたティナを見て、レナはにっこりと微笑み、ティナの頭を右手で撫でながら、母親がわが子をさとすように言う。


「ティナ、気持ちは分からないでもないわ、でもね、リサはティナのたった一人の血のつながったお姉さんなのよ、これからどんなことがあっても、あなたと一緒にいるのはリサなのよ」


 ティナはレナに顔を向け、目を見て答える。


「私にはレナさんがいます、あの人は、お姉さんなんかじゃない、それにレナさんの腕だって……」


 ティナはそう言いながらレナから視線を外した。


 レナは「食べようか」と笑顔で言い、パンに焼いた肉と卵をはさみ、ティナに差し出した。


「食べちゃなさい、今日は学校の最終日でしょ」


 パンを差し出されたティナは、パンを一口食べて、レナを見ながら「あのレナさん、やっぱり、今日パーティやるの?」と不安そうに言った。


「やるわよ?」


「わたし、どう接したらいいか分からないんです、レナさんは、怖くないの?」


 怖くないの? という言葉に内心ドキッとし、左手の義手を眺めながらレナは答える。


「怖くないわ、あれはリサの意思じゃない、だから私はリサを受け入れるわ」


 どこか現実感のない自分の言葉だった。しかし、ティナの前ではこれでいいとレナは自分に言い聞かせた。


「よし!」とレナは両手でパチンと音を立てた。


 突然のレナの行動にティナは肩を上下に揺らした。


「私は今日の夜の買い出しにいくわ、食べ終わったらお皿、出しといてね」


 レナの言葉を聞くと、ティナはやや呆れ顔でため息を漏らして、料理場にある洗い物の山を見つめた。


「昨日の洗い物の当番、誰でしたっけ?」


 ギクッと効果音が鳴ったような気がした。


「あ、あはは、私です、ごめんなさい」


 レナは小さくなりながら答えた。


「なんで、レナさんって料理上手なのに洗い物できないんですか?」


「いやぁ、洗い物しようとすると身体中かゆくなっちゃって」


「私が洗っておきますから、今日の夜の準備お願いしますね」


「ティナ、ありがと」


 レナはそういうとティナの頭に手を乗せ軽く撫でた。


「もう、それはずるいです」


 ティナは何やら顔を赤くしていた。


 うーんこの反応なんだろ? 毎回気になるのよねぇ……まぁいいか!


「じゃ行ってくるね」

 

 レナが手を軽く振り返すと、ティナが顔が赤いまま手を振り返した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る