第13話 邪神

翌朝、ハルトアルガス城を訪ねた。前回の様に断られる事はなく、すんなりと城内の客間に通される。

待つ事20分、ルイス王子がラード騎士団長を伴い現れた。


「ハルト殿、よく来てくれた」


「遅くなり申し訳ありません」


「本当にな… ま、まぁ、それはいいとして、早速で悪いが、国王に会って欲しい」


(ヤバっ、ルイス王子めちゃ怒だよ…)


「か、畏まりました」


ハルトはルイス王子に連れられ、ひとつの部屋を訪れる。


「ハルト殿をお連れしました」


「入れ」


部屋の中にはラガス国王とゲイツ丞相がおり、ハルトは促されるままラガス国王の向かいに座る。


「ハルト殿、よく来てくれた。此度はグランデ王国を救ってもらった事、心より感謝する。本来ならきちんとした場で伝えるのだが、ハルト殿の【目立ちたくない】と言う要望があった為、この様な形にさせて貰った」


「ありがとうございます。僕は11歳で後ろ盾もないので、目立つと危険があると思いまして…」


「ハルト殿が危険に陥る姿は想像出来んが…

ハルト殿は今後どうするつもりか、良ければ教えて貰えないだろうか?」


「具体的には決めていませんが、世界を見て回りたいとは思っています」


「そうか… ハルト殿にひとつ願いがあるのだが…」


「国王様、その前に御礼の品をお渡しした方が宜しいのでは?」


丞相が国王に話しかける。


「おぉ、そうであった。ハルト殿に対する礼は何が良いか考えたのだが、目立ちたくないと言う事を考えて金銭にする事にした。

後は、何か困った時は可能な限り力になる。その時は頼って欲しい」


ハルトの前に皮袋が3つ置かれ、中には白金貨が全部で300枚入っていた。


(マジか。白金貨一枚、日本円だと一千万だから… 30億かい!!  断っても失礼だし、有り難く頂いておくか)


「ありがとうございます」


「それで、ハルト殿にひとつ願い事がある」


「願い事ですか?」


「少し長くなるが聞いて欲しい。我が国の王族には遥か昔より、ひとつの伝承がある。

それは産まれたのが王女の場合、必ず10歳を迎える時に死ぬと言うものだ。

そして、その年には必ず魔物が王都を強襲すると…」


「まさか、この間の魔物達が其れにあたるんですか?」


「その通りだ」


「それじゃあ、魔物は殲滅したので、もう大丈夫なんですよね?」


「そうではないのだ。過去にも、魔物を退けた事はあったらしい。しかし、王女は亡くなったと伝えられている」


「死因は分からないと…」


「そうだ」


「それで、王女はどちらに?」


「厳重に護っている。丁度明日が10歳の誕生日なのだ」


「それは心配ですね… それで、僕にも守護して欲しいと?」


「それもあるが、ハルト殿は光魔法も使えると聞いている。一度、王女に会って診てもらえないか?」


「… わかりました。御力になれるか分かりませんが、お会い致します」


ハルトはラガス国王に連れられひとつの部屋の前に着いた。

部屋の前には騎士が厳重に監視しており、扉は固く閉ざされている。

ラガス国王は扉に近付き、静かにノックする。


「私だ。入ってもよいか?」


「はい…」


「悪いが、丞相と騎士団長は此処で待っていてくれ」


「「畏まりました」」


ラガス国王とルイス王子、そしてハルトが室内に入る。

室内には窓がなく、魔道具の灯りが照らされており、恐らく窓があったらしき場所に、ひとりの少女が座っていた。


(こんな場所に産まれた時から居るのか… 守るためとは言え、なんて可哀想なんだ)


「マリア、調子はどうだ?」


「お父様… 私はいつも通りです」


「ユリアはどうした?」


「お母様は食事をとりに行っています」


「そうか。ユリアが戻ったら話がある」


重い空気が場を支配する。

待つ事15分、ユリア王妃が戻って来た。


「いらしてたのね」


「あぁ… 少し話をしたい」


ラガス国王の言葉で皆がソファーに移動する。片方にはユリアとマリア、反対側にはラガス国王とルイス王子が座った。


「それで話とはなんでしょうか?」


「マリアよ、今日は客人を連れて来た。先の魔物襲来から王都を救った英雄だ」


「噂は聞いております。なんでも、まだ少年だとか?」


「そうだ。 ハルト殿!」


ハルトは入口のドア横に待機していた。ラガス国王の言葉で皆が座るソファーに寄り、挨拶をする。


「お初にお目にかかります、ハルトと言います」


この時初めてハルトはマリア王女の顔を見た。するとマリア王女と目が合う。


「は、ハルト… !?」


「「「えっ!?」」」


マリア王女の言葉に皆が驚いた。


「ま、マリア! ハルト殿を知っているのか!?」


ラガス国王が驚いて声を上げる。


「分かりません。でも何度も会った事がある様な、懐かしさを感じました…」


その時、ハルトが激しい頭痛に襲われた。

ルイス王子が慌てて倒れそうになるハルトを支える。


「だ、大丈夫か!?」


「急に頭痛が… すみません、もう大丈夫です」


(何だ今のは? 急に頭痛がして、記憶を操作された様な感じがする。確かに俺もマリア王女を見た時に懐かしさを感じた… どう言う事だ?)


「ハルト殿、調子が悪いなら日を改めるが?」


「大丈夫です」


「そうか。マリアよ、ハルト殿は光魔法の使い手で、一度マリアを診てもらえないか頼んだんだ」


「そうなんですね。是非お願い致します」


「それでは、先ずは状態を確認しますね」


ハルトはまずマリアを鑑定する。


『鑑定』


マリア・フォン・アルガス/Lv.1

【称号】グランデ第一王女(聖女)

【HP】8/8

【MP】10/10

【腕力】4

【魔力】10

【防御】2

【敏捷】2

【知力】65

【スキル】転生(邪神の呪い)


(スキルが邪神の呪い? 死因が分からないって言ってたけど、もしかしなくても呪いが原因だろうな…)


「どうだ?」


ハルトが沈黙していた為、ラガス国王が心配になり声をかける。


「… 落ち着いて聞いて下さい。マリア王女には邪神の呪いがかかってます。今まで伺った内容から、恐らく10歳で亡くなる呪いではないかと。 正確には転生ですが…」


「「「「………」」」」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 邪神の呪いだと!?」


「お父様、落ち着いて下さい。ハルト様、要約すると私は死ぬんではなく、10歳で転生するんですね? そしていつの時代か生まれ変わり、また10歳で転生しそれを繰り返す…そう言う事でしょうか?」


「恐らく…」


「そ、そんなのあんまりだわ… 」


ユリア王妃が泣き崩れる。

ルイス王子は拳を握り締め震えている。

そんな空気の中、ラガス国王が語り出す。


「今から凡そ500年前、世界各地で魔物が暴れ回った時代がある。世界人口は3分の1まで減り、人類は滅びるかと思われた時、ふたりの人物が立ち上がる。

一人は勇者、そしてもう一人は聖女。

二人は世界を旅しながら魔物を討伐し続け、最後に邪神アルテミスと戦った。

なんとか邪神に勝つも完全には消滅出来ず、バラバラにして各地に封印した。

その後勇者は行方知れずになり、聖女は勇者の後を追う様に息を引き取った。

その時の聖女は、グランデ第一王女のアテネだったそうだ…

この話は国王になる時に引き継がれ続けて来た極秘事項だ」


「「「………」」」


「ハルト殿、無理を承知で頼む。なんとか出来ないだろうか…」


ラガス国王の言葉で皆がハルトを見た時、ハルトは涙を流していた。


「ど、どうしたのだ!?」


ラガス国王が慌ててハルトに近寄る。


「えっ? なんで僕は泣いてるんだ??」


ハルトは何故か分からないが、悲しみと怒りに包まれていた。

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邪神を許すには無理がある @humi-nao

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