第10話 開戦間近

(やはりあの時、ハルトを王都に連れて来るべきだったか…)


ルイス王子は外の空気を吸おうと、中庭を目指していた時、一人の騎士が駆け寄って来た。


「ルイス王子!?」


「? 慌ててどうした?」


駆け寄って来た騎士は一緒にサルタ村に行った騎士だった。


「そ、それが、先程チラッと2階から見えたんですが、門に少年が居て、それがハルト殿に似ていた様な…」


「なんだと!? 直ぐに向かう!」


ルイス王子と騎士は慌てて門に向かった。

しかし、ハルトらしき少年の姿はない。

ルイス王子は門番に話しかける。


「勤務中すまない。先程、少年が訪ねてこなかったか?」


「る、ルイス王子!? なぜこの様な場所に」


「質問に答えてくれ」


「はっ! 確かに先程10歳くらいの少年が、ルイス王子に会わせて欲しいと来ました」


「そうか! それでその少年は何処に!?」


「ルイス王子には簡単に会えない事を伝え、帰らせました!」


「は? か、帰らせただと??」


「はい、偶にルイス王子に会いたいと、勘違いした者が来るんです。あのハルトとか言う少年もその類かと」


「………ば、ば、馬鹿者!!! 以前ハルト殿の通達はしただろう!」


「え? ま、まさか…」


「そのまさかだ! なんて事をしてくれたんだ!! 直ぐにハルト殿を探しに行け!」


「はい!!!!」



その頃ハルトは武器屋を訪れていた。


(そろそろ素材を金に換えときたいんだよな…店内を見る限り、かなり質の良い武器が揃ってるし、ダメもとで交渉してみるか)


「おっちゃん、良い素材があるんだけど、買わない?」


ハルトはカウンターに居る男に話しかける。

顔は髭で隠れており、身長150㌢で筋骨隆々のドワーフだ。


「ほぅ、どんな素材だ?」


「何でもあるよ。逆に何が欲しいの?」


「何でもと来たか… そうだな、なるだけ硬い魔物素材がいいが…」


(硬いか… 70階層に居たアレでいいかな?)


「これなんかどお?」


ハルトは収納から、ワイバーンの爪を取り出した。


「こ、これはワイバーンの爪か!?」


「流石、その通りだよ」


「こんなもん何処で手に入れた!!」


「ん? ダンジョンでだけど」


「ダンジョンって… ま、まぁいい。それで、本当にコレを売ってくれるのか?」


「勿論。価格はよくわからないから、おっちゃんに任せるよ」


「そうか… 白金貨2枚でどうだ?」


(白金貨一枚が1千万だから、2千万か…)


「それでいいよ。一枚は金貨に両替してくれる?」


「わかった」


「それにしても、僕の言う事をなんで信用したの? 普通は子供の戯言と相手にしないと思うんだけど?」


「見た目通りの年齢じゃない種族は沢山居るし、お前には何か凄味を感じる…」


「そうなんだ。僕はハルト、これからも偶に素材を持ち込んでもいい?」


「勿論だ、こちらこそ宜しく頼む。俺はブロックだ」


「わかった。今日はありがとう」


ハルトは金が手に入った為、ブロックに教えてもらった宿に向かった。


(ここだな)


ハルトは【兎のお宿】に入る。


「すみません、部屋を借りたいんですが?」


「いらっしゃい。部屋は2食付きで銀貨5枚だよ」


恰幅のいいドワーフの女性が説明する。


(銀貨一枚が1,000円だから、5,000円か。王都の観光もしたいし、多目に泊まるか。


「じぁあ、2食付きで20泊お願いします」


ハルトは金貨一枚を支払った。


「部屋は2階の1番奥だよ。夕食は18時〜20時のなら大丈夫だよ。それを過ぎたら食べられないからね」


「わかりました」


ハルトは鍵を受け取り、部屋に向かった。


(さて、どうするかな… 城に行っても追い返されるし、とりあえず魔物を少し間引いておいた方がいいよな)


ハルトは明日から魔物退治をする事にして、久しぶりのベッドで眠りについた。


その頃街中を大勢の騎士が走り回っていた。


「見つかったか!?」


「全ての宿をあたりましたが、それらしい人物は居ませんでした」


「アルガス王国の運命がかかってるんだ! なんとしても探し出せ!!!」


「「「 はっ!! 」」」


騎士が探した宿に入れ替わりでハルトが来た為、結局ハルトは見つからなかった。


翌朝、城壁の上にルイス王子の姿があった。


「よいか! 必ず王都を守りきるぞ!!」


城壁の上に騎士団の50人からなる魔法部隊が勢揃いし、ルイス王子の合図を待っていた。


「放て!」


ルイス王子の合図で一斉に魔法を放つ。

城壁近くにはランクが低い魔物が多い為、一度の魔法で数百体の魔物が蹴散らされる。

しかし、直ぐに後ろの魔物が押し寄せてくる。



- 3時間後 -



「王子、もう魔力が残っておりません…」


カリナ魔法騎士団長がルイス王子に申告する。


「そうか…」


ルイス王子は城壁の外を見渡す。優に1,000体は討伐した筈なのに、未だ魔物で埋め尽くされていた。


「いったいどれだけ居るんだ…」


「ざっくりですけど、残り7,000体位ですね」


「!? ハルト!!!!」


ルイス王子が声のする方を見ると、ハルトが立っていた。余りの嬉しさから、自分でも驚く程大きな声が出ていた。


「お久しぶりです。一応、お城には行ったんですが…」


「その節は申し訳なかった」


「気にしないで下さい。突然行った僕も悪いですから。それより、状況をお知らせしても?」


「頼む」


「残り魔物数は約7,000体で、後方にSランク1体とAランク10体居ます。それ以外は殆どがCランクですね」


「な! Sランクだって!?」


騎士団の平均レベルは30程で、騎士団長クラスだとレベル50程になる。魔物ランクCはレベル25前後で、ランクAだと50を超える。更に上がランクSでレベルは70以上な為、カリナ魔法騎士団長が驚きの声を上げる。


「慌てるな。ハルトに任せれば良い」


「御言葉ですが、この様な少年に何か出来るとはとても…」


「信じられないのも無理はない。まぁ、見ていろ」


カリナ魔法騎士団長は納得がいかない表情を浮かべが、ルイス王子はカリナ魔法騎士団長をスルーしてハルトに話しかける。


「ハルト、それでどの様な作戦で行くつもりだ?」


「そうですね…」


(気持ち的には帝王級火魔法メテオラを試したいけど、余り地形が変わってもマズそうだし…)


「幸い、魔物達は正面に固まってますから、範囲魔法である程度数を減らそうと思います」


「それでどれくらい討伐出来そうだ?」


「恐らく3分の2くらいでしょうね… Sランクは確実に残ります」


「そうか… 我々に出来る事はあるか?」


「僕は魔法を放った後、残った魔物に突っ込んで殲滅する予定ですが、何体かは撃ち漏れが出るでしょう… それをお願い出来ますか?」


「了解した。いつから始める?」


「色々と準備もあるでしょうから、明日の朝からで如何でしょうか?」


「宜しく頼む」


開戦準備の為に、ルイス王子は足早に城へと戻って行った。

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