第5話 サルタ村
― 1年後 ―
「やった… やってやったぞ!!!!」
ハルトは1年かけてやっとダンジョンを出ることが出来た。
ダンジョンの外には高さ10㍍はありそうな木々が生い茂っており、日が沈みかけている。
(それにしても、俺がいたのが88階層だったとはビックリだわ。そりゃあ、レベル90あたりがぽんぽん出るわけだ… 我ながら良く頑張った。普通なら死んでる…)
ハルトはダンジョンから出る際に階数を数えていた。
魔物の強さからある程度深いとは予想していたが、まさか88階層だとは思いもしていなかった為、今になって生き残れた事に驚きを感じていた。
(さて、先ずは町を探すか。出来ればなるべく目立ちたくないから、小さめの町で情報収集が無難だな。)
ハルトは探知魔法を使い周辺の状況を調べてみた。
(この魔力反応は人間だよな? 大体30人ってとこか… 直ぐに暗くなりそうだし、とりあえず向かってみるか)
ハルトが身体強化を使って反応があった場所を目指す事20分、目の前には高さ2㍍程の木の柵で囲まれた村に着いた。
村の入り口には50代位の男が立っており、ハルトを見つけるなり話かけてきた。
「こんな時間にどうしたんだ?」
「遅くにすみません。気付いたら村の近くで倒れていて、何も覚えてないんです」
「他に誰も居ないのか?」
「はい…」
「そうか… ついて来い」
ハルトは男に連れられて村の奥にある家に案内された。
「ガジルさん!」
「どうした?」
男が家の入り口で叫ぶと、身長180㌢で筋骨隆々の男が現れた。
入り口に居た男が事情を説明すると、ガジルと呼ばれた男がハルトに話しかけてきた。
「坊主、名前は覚えてるか?」
「はい、ハルトです」
「それで、ハルトはどうしたいんだ? 近くの街まで送ってやる事も出来るが?」
「そうですね… 何も覚えてない状態で大きな街に行くのは少し怖いです。
出来れば、此処で暮らす事は出来ませんか?
勿論、自分の事は自分でやるので…」
「まぁ、そんなに堅くならなくていい。別に村に住むのは構わんが、街に行けば坊主の知り合いが居る可能性があるぞ? それでも此処に住むのか?」
「はい…」
「わかった。バル、メイ婆さんの処に連れてってやれ。婆さんなら、面倒見てくれるだろう」
「わかりました。ハルト、ついて来い」
「宜しくお願いします」
ハルトはバルに連れられて小さな家に着いた。
「この家にはメイ婆さんが一人で住んでいる。昔は息子さんが居たみたいだが、死んじまったみたいでな… メイ婆さんなら、ハルトの面倒を見てくれる筈だ。メイ婆さん! バルだ!」
「こんな時間にどうしたんだい?」
「いきなりすまん。村の外で倒れてた坊主なんだが、暫く面倒見てくれないか? ガジルさんには話を通してある」
「あら、あら。それは大変だったね。家で良ければ何時まででも居ていいよ」
「いきなり押しかけてすみません。これから宜しくお願いします」
ハルトの予定では、村の隅で一人で住むつもりだったが、流れに任せる事にした。
メイさんは80歳位で、優しそうな印象だった。敢えて面倒を見て貰う事で、怪しまれないと考えた。
メイ婆さんの家には小さな畑があり、畑の収穫がハルトの仕事になった。
メイ婆さんと暮らし始めて4ヶ月、今ではすっかり村に溶け込めていた。
村の名前は【サルタ】で、この村は訳ありの人達が作ったらしい。
訳ありと言うのは、其々が何らかの理由で街から離れた暮らしを望んだからだ。
メイ婆さんは街で小さな店を家族3人で営んでいた、そんなある日、国同士の戦争に夫と息子さんを徴兵されて、帰らぬ人になった。
メイ婆さんは絶望して、死に場所を探していた時に【サルタ】を見付けてなんとなく住み着き今に至るらしい。
そう言う人達が集まり村になったからか、サルタには子供が居なかった。
ハルトが来て最初の内は、村人達の目線から寂しさが伝わって来て居づらかった。 そんなある日、ハルトの探知魔法に沢山の人間が村に向かって来るのを捉えた。
「メイ婆さん、畑は僕がやっておくから家の中で休んでて」
「いつも悪いね。それじゃあ、お昼ご飯を作って待ってるよ」
(とりあえず家に結界魔法をかけて、後は向こうの出方次第だな。何時でもジルさんを助けに行けるように気を付けておくか…)
ハルトが気付いてから30分、村の入口に【いかにも騎士】と言う感じの人間が押し寄せて来た。その数凡そ20人。その内の1人の男性がジルに話しかける。ハルトは聴力を強化して静かに状況を見守った。
「突然すまない! 怪我人がいるんだが薬草を分けて貰えないか!!」
「怪我人が? わかった! 少し待っててくれ!!」
バルは急いでガジルの元を訪れ、事情を説明した。事態を把握したガジルは、薬草を持って騎士の元に急いだ。
「俺は村長をやってるガジルだ! 怪我人はどこにいる!!」
「こっちだ!」
ガジルは騎士に連れたれて、ひとりの騎士の前に来た。その騎士は周りの騎士達とは違い、豪華な鎧を身に纏っていた。
金髪で精悍な顔立ちをしており、見るからに身分が高そうだった。
しかし、左腕には肘から手首にかけて大きな傷があり、骨まで達している様が見てとれた。
「ーッ、この傷は薬草ではどうにもならんぞ… 菌が全身にまわる前に、腕を落とした方がいい」
ガジルは怪我の具合を見てそう判断した。
それを聞いた騎士が顔を苦痛の表情で歪ませる。何か事情があると思ったガジルは薬草を使ってから騎士に話しかける。
「とりあえず応急処置はした。何のもてなしも出来んが、村で休ませた方がいいだろう」
「かたじけない…」
騎士達が村に入り休息をとる中、ガジルの家にはリーダーらしき騎士が居た。
「私はラードと申す。この度は突然の訪問を謝罪するとともに、怪我の処置を感謝する」
「其れは気にしないでくれ。だが、あの騎士はこのままだと命を落とすぞ…」
「それはわかっている。わかってはいるんだが、彼の方は大事な方なのだ。命には変えられないが、腕を落とす事で彼の方が気落ちする姿を想うとどうしても…」
「まぁ、普通の騎士ではない事は見たらわかるが… よければ、事情を説明してもらえるか?」
「そうだな… 2日前、この村から北に5㌔程いった処で魔物の大量発生が起こっていると知らせを受けた。その知らせを受けた国王が討伐隊を出す事を決め、我々が向かったのだが、想像したのより遥かに魔物が多く、気付けば我々は魔物に囲まれていた。
その状況を打破しようと、魔物が薄い場所に突入した。なんとか切り抜けられそうだった時に、一体の魔物が鋭い爪で騎士に襲いかかって来て、その騎士を庇って傷を負ったのが先程のルイス王子だ…」
「なぜ王子が魔物討伐隊に?」
「それは…」
「まぁ、色々と事情があるんだろう。しかし王子となると、簡単には腕を落とせんな…」
(どうするかな? 俺なら簡単に治せるけど、絶対厄介な事態になる。でも、助けないなんて選択肢はないよな…)
ハルトはガジルの元を訪れた。
「どうしたハルト? 悪いが今は取り込み中だ」
「突然すみません。事情は聞かせて貰いました。そこでなんですが、僕が王子様を治します」
「何を言っている? 今はふざけている場合ではないぞ。って言うか、何で知っている?」
「ガジルさんには後で全てお話しします。今は王子様をお助けするのが先です」
「ハルトに出来るのか?」
「はい。只、あまり目立ちたくないので、部屋には最低人数でお願いします」
「… わかった。ラードさんもそれでいいか? どのみち、今のままでは助からん」
「わかりました。何卒ルイス様をお助け下さい」
(この人、めちゃくちゃ出来た人だな。きっと爵位持ちだろうに、村長や俺に頭を下げるなんて、普通出来ないだろう…)
ハルトはラードの態度に感心しながらルイスの元に向かった。
ルイスは村長宅のベッドに居た。傷口から毒素が入り、腕だけではなく、全身が紫色に変色し始めていた。そんなルイスにラードが事情を説明する。
「ルイス様、今からルイス様の怪我の手当を致します。皆は下がってくれ!」
ラードはハルトとの約束通りルイスの護衛を部屋から出し、部屋にはルイスの他に、ラードとガジル、そしてハルトの4人だけとなった。
「ラード、このままでは私は助からん。いっその事、腕を落としてくれ…」
「ルイス様… 」
「話に割り込んですみません。魔物の毒素が体内にまわり始めています。急いだ方が宜しいかと…」
「よろしく頼む…」
ラードの許可を確認したハルトは、ルイスの全身に
「「「 !!!!! 」」」
「どうですか? 右腕に違和感はありませんか?」
「あ、あぁ… 問題ない。それどころか、信じられないくらい身体が軽い」
「それは良かったです。それでは僕は帰ります」
「ま、待て! きちんと説明しろ!!」
ハルトが帰ろうとすると、ガジルが慌てて止めた。
「
「信じてもらえないと思いますけど… 全てお話しします」
ハルトは静かに語り出した。
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