第22話

 私が国を救う?


 そんなことは有り得ない。

 私はただの侍女だ。

 アマンダお嬢さまにお仕えしていけれど、実は結構へっぽこだ。

 特別有能な侍女なんてことも無いし、もし有能だとしても侍女一人にこの国を救わせ用なんていくら、お告げだけでなりたってきた国としても愚かすぎるだろう。


 私はただの黒髪の侍女。


 転生者なんかじゃない。


 転生者っていうと、もっと特別な能力があるはずだ。

 国を救う聖なる力とか、ものすごい魔力とか、元の世界の文明をこの国にもたらすとか。

 だけれど、私にはそんな要素はこれっぽっちもない。


「何かの間違いです」


 私はできるだけはっきりという。

 だけれど、王太子は聞く耳をもたない。


「そんなはずはない。美夢と契ったが国は傾く一方だった。これも全てお告げに従わなかったせいだ。俺たち王族は美夢がだめだと分かったあと、国を救おうと必死にお告げの条件にあう女性を探したのだが……そして、やっと君を見つけたんだ。国のため、国民のため。この国を救っておくれ」


「私は異世界からなんて来てません」


「……強情だな。主人アマンダに気を遣うことはないんだぞ。そうだな。お前が俺の妃になるというのならば、あの女をこの国に呼び戻してやってもいい。そうだ、あの女をお前の侍女につけてやってもいいぞ。あの高飛車な女が俺の妃に傅くなんて面白い」


 そういって、王太子は愉快そうに笑った。

 信じられない。

 この男。

 私の大切なアマンダお嬢さまのおかげでここまでやってこれたのに。国のお告げに従うための計画に従うためにアマンダお嬢さまは自分の性別さえも知らず、自由に生きることもできなくて、そして何より自分の国を追い出されたというのに。

 それを今更呼び戻すですって?

 しかも、侍女として?

 許せない。


 アマンダお嬢さまはもう自由なはずなのに。

 優しくて、思いやりに満ちあふれて、自ら何でもできるお嬢さまを。

 今更呼び戻して、侍女にしようなんて。

 絶対に許せない。


 王太子が一歩、また一歩と私に近づいてくる。

 後退ろうとしたが、すぐに部屋の中央の丸椅子にあたり、私は丸椅子に尻餅をつくように座ることになってしまった。


「ほら、逃げないで。子猫ちゃん」


 そう言って、王太子は私の隣に座り、手をとった。鳥肌がたつ。

 こんなことアマンダお嬢さまにだってしていなかった。

(いや、アマンダお嬢さまにこんなことをしたら、私は絶対に許せないけれど)


「ほら、そんなに震えないで。心配ないから、少し話をしよう」


 もしかして、この男。最近、急に女慣れした?

 アマンダお嬢さまの手を取るときはおそるおそるだったし、美夢と手をつなぐときはまるでお気に入りの玩具を手に取るようにぎゅっとつかんでいたというのに。

 もしかして、王国は手当たりしだい転生者と想われる人間を王太子に与えたのだろか。


 おぞましい。


 そして、私は自分の身にこれから起こることをはっきりと想像し絶望した。

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