第21話
翌日、私は馬車に乗せられ王宮に向かわされた。
ろくなドレスなどもっていなかったので、アマンダお嬢さま様の部屋に残されていたドレスを急ぎで丈をつめて着せられた。
アマンダお嬢さまが気に入っていたドレスだった。
ドレスはお嬢さまが使っていたラベンダーとパチュリの香りがした。上品なレースが裾や袖ぐちに使われたドレスだったけれど、お嬢さまと比べると背が小さな私がきると、そのレースの分は余分で結局内側に縫うようにして仮留めすることになった。お嬢さまにはよく似合っていたドレスだったけれど、私ではドレスにまけてしまっているみたいだった。
王宮につくと、見たこともないような立派な部屋に通された。
いままで、お嬢さまについて王宮にきたことは何度もあったけれど、見たことがない部屋だった。
王太子の婚約者でさえ、入れない部屋っていったい……?
すべてが金や銀、宝石で装飾されていて趣味が悪い。
しかも、部屋の形ときたら、六角形だった。
しかも、窓もない。
各壁にはそれぞれ、鏡がかけられているし、私がはいってきたドアは鏡でできていた。
どこにいても自分の姿が鏡に映り不気味だった。
部屋のまんなかには大きな円い椅子が置かれただけだった。
「待たせたな、我が花嫁よ」
聞き覚えのある声……王太子の声だった。
振り向くと、鏡の扉が開いた。
そして、王太子が扉を閉じると同時に、
ガチャリ
と、不穏な音がした。
少しさび付いてはいるけれど、断固とした響きがあった。
この部屋が確実に閉ざされた、そう、錠の下りる音だった。
「なんなんですか。この状況は一体……」
私はおびえた声をあげた。悲鳴をあげることは無駄だと分かっていた。だって、この場所は敵の陣地。私が悲鳴をあげたところで誰も来ない。だけれど、この状況で普通にしているほうが変だ。
「なにって、この国を救うのだ」
非常に抽象的な表現だ。
この国の貴族はみんなこのような遠回しの表現ばかりする。
だけれど、この王太子はもしかしたら。知らないのかも知らない。なんていったって、神のお告げだけでなりたってきた王国だ。王族はただの馬鹿の可能性もある。
そして、愚かなことをごまかすのに抽象的な言葉を使う。
でも、分からない。もしかしたら、王族だけが特別な事情をしっているかもしれない。
「国を救う、ですって……?」
「ああ、光栄に思うことだね。公爵家の使用人風情がこの部屋にくることができるなんて夢のようじゃないか」
「……私にこの国が救えるっていうのですか?」
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