第15話
「ソフィーすごいわ。あなたが畑仕事をするようになってから前より植物の成長がはやい気がするの。あなたって、野菜が嫌いなのにこんな才能があったのね」
お嬢さまは「野菜が嫌い」って部分をクスクス笑いながら言った。やっぱり、シチューは野菜を食べさせるための作戦だったか。野菜嫌いがばれていたのがはっきりして私はちょっと気まずい。
最近、私は畑仕事をするようになった。
お嬢さまと一緒に森に狩りについていくのはまだ怖いし。農園に手伝いにいったところ、あまり役に立てている様子はなかった。けれど、畑関係の作業は少し自分に向いている気がしたのでやってみたら、確かに収穫量もあがっているし、前より採れる野菜は癖がなく甘みがあって美味しい気がする。
まあ、自分で育てた野菜は美味しいみたいな気分の問題かもしれないけれど。
でも、毎日、「早く大きく、甘くなれ」と心の中で囁きながら畑の手入れをしていた。そうすると、それが植物にも伝わって甘くなるって……あれ、私はこのことを誰に聞いたのだろう。思い出せない。
「ねえ、ソフィー。最近、噂で聞いたのだけれど……今年は作物の育ちが悪いって噂は本当なのかしら?」
お嬢さまの表情が曇る。
そう、私たちあいたあの、お告げに従っちゃうまぬけ王国は今年、作物が不足だというのだ。
あの国の国境からそう遠くない私たちの小さな家ではこんなに豊作だというのに。
公爵家からの援助が減ったのも、これが原因だった。
そう、お嬢さまをないがしろにしていたのではなく、単に国が困窮していたのだ。
お告げで政治をしちゃうような国だから、今まで成り立っていたほうが不思議なくらいだけど。
「お嬢さま、よろしければ、この間収穫したものとお嬢さまが作ったジャムなどお母様に送ってみたらいかがでしょうか。もちろん、私の名前でということになってしまいますが……」
「ソフィーと、一緒に作ったジャムね! やっぱり、ソフィーが作ったのが一番おいしいし」
お嬢さまは一応追放されたという形をとっているため、手紙を送るのが難しいのだ。
お嬢さまは嬉しそうに微笑んだ。
自分を道具として扱うことを許した実家に対しても優しいのだ。
恨めばいいのに。嫌えばいいのに。
自分を道具にして、故郷を離れざるを得なくしておいて、自分たちだけのうのうと暮らす家族を。
だけれど、お嬢さまは恨んだりせず、むしろ不作が続く故郷を心配していた。
でも、不思議だ。
神のお告げに従って反映してきたあの国が、どうしていま凶作で苦しんでいるのだろう。
だってあの国は、アマンダお嬢さまを犠牲にしてまで、王太子と異世界からやってきた黒髪の少女を結婚させるというのに。
一体、何が原因だというのだろう。
やっぱり、うちのお嬢さまをないがしろにしたせい?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます