第14話

「ねえ、美味しい?」


 アマンダお嬢さまは、上目遣いでささやく。

 すごく、すごく可愛い。


「おいしいです。すごく」


 野ウサギのシチューはすごくおいしかった。

 臭みも少なく、肉もやわらかい。そして、大抵のシチューはこってりとしすぎるのにお嬢さまの作ったシチューはとても食べやすかった。野菜もたくさん入っている。この土地の野菜は今まで食べていたものより風味が強い分、苦手に感じるものもあったがこうやってしっかり煮込まれていると食べやすかった。


「よかったあ」


 お嬢さまは私が食べるのをみて、とろけるような微笑みを浮かべた。

 私がちゃんと野菜も食べるか見ている。どうやら、最近野菜が苦手で残しがちだったのがばれていたらしい。

 いい年して、好き嫌いなんてはずかしい。

 ばれていないと思っていたのに。


「ねえ、ソフィー。私ね、こういう生活すごく向いているかもしれない。不思議ね。ちょっと前まで、私は王太子の婚約者として何をするのも許されなかったのに。こうやって、色んなことを自分でできる今の生活がすごく幸せなの……」


 お嬢さま……私は大して成長していない。野菜が苦手なんて子供みたいだ。公爵家からの援助だって減っている中で、野菜が苦手だなんていっている自分が本当になさけない。


「お嬢さま……」


 何て言えばいいのか分からなかった。

 そして、やっぱりまだ『マンディ』と呼ぶことも出来ない。


「ねえ、ソフィーだから……心配しないで。私たち、二人きりでもきっと生きていけるわ。私は食べ物をとってこられるし、こうやって少しずつ料理もできるようになっているもの。それに、私、自分でも知らなかったのだけれど結構力持ちなの」


 そういって、にこっと笑う。

 ああ、お嬢さまは気づいていたのか。

 実家である公爵家からの援助の品が減っていることに。


 心配させないようにしていたのに。

 どうやら私は隠し事をするのが下手らしい。


 そういえば、子供のころからお嬢さまはなんでもお見通しなのだ。

 聡明で優しいお嬢さま。

 私はお嬢さまを助けるつもりでいつも助けられている。

 私、一人だったらここで暮らしていくことなんてできないだろう。


 森で狩りをしたり、近くの農園の人としたしくなり色んなものを融通してもらっているおかげで、ここでの快適な暮らしがなりたっている。そう、お嬢さまのおかげなのだ。

 追放先の、この小さな家が明るく快適な場所であるのは。


 私も、もっと色んなことをしてみよう。

 そして、いつかお嬢さまをちゃんとささえることができる存在になれたら、またアマンダお嬢さまを子供の頃のように『マンディ』と呼ばせてもらおう。

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