第13話
最近、公爵家からの仕送りが減った。
何が起きているというのだろう。
まさか、用済みのお嬢さまが野垂れ死ぬことを望んでいるのだろうか。ありえない。
そんなことはあってはいけない。
アマンダお嬢さまは追放された令嬢ではあるが、実際はなにも悪いことをしていないどころか、国のために性別まで偽って育ってられたのだ。その結果、未だにお嬢さまは自分が“男”であることを知らない。
王太子の婚約者として、育てられたお嬢さまの人生は、ずっと側にいた身から見ると、窮屈で辛いものであった。
王太子妃になるための教育は受けてきたけれど、それ以外は何もできない。いや、出来ないように育てられてきたのだ。
そのあとの人生のことなんか誰も考えずに。
他の同じ年ごろの貴族の少年たちは、剣術やら政治学や経営なんかを勉強していたというのに。アマンダお嬢さまはダンスやマナーなど女性としての教養ばかりだった。
何も知らずに、可哀想なアマンダお嬢さま。
生きるための勉学も与えられずに、必要なくなったら追放だなんて。
そもそも、あの王国は変である。
お告げによって、動いている。
なんにも考えていない、国が無事なのがまさに奇跡といえるくらいの国なのだ。
王太子が異世界から来た黒髪の美夢という少女と無事に結ばれることができたのだから王国は安泰。
追放されても公爵家もお嬢さまの生活も、保証されるはずだった。
なのに、今更どうしてお嬢さまがこんな酷い扱いを受けなければいけないのだろう。
もし、このまま援助が減ってしまえば……お嬢さまはどうなってしまうのだろう。
私が心を痛めて泣いていると、扉を叩く音がした。
森に散歩にいっていたお嬢さまが帰ってきたのだ。
「ソフィー、今日は野ウサギが採れたよ。明日の夕飯はこれでシチューにしよう」
帰ってくるなり、お嬢さまは嬉しそうに言った。
「の、野ウサギですか。えっと、ウサギって……」
「ああ、見たい? この袋のなかなんだけど」
お嬢さまはそういって、手にもっと袋をもちあげてみせようとした。袋にはちょっとだけ血が滲んでいた。
「ああ、ええ。あの、その、ムリ……」
私はその袋の中に野ウサギが入っていると思うと、血の気が引いていくのが分かった。
袋の中に、あのふわふわとやわらかい茶色い毛にくりくりとした可愛らしかったウサギが、冷たい肉の塊になっていると思うと怖くてしかたがなかった。
もちろん、私はお肉は好きだ。
だけれど、やわらい毛皮をもったウサギと食べるお肉の間の状態にあるウサギはどうしてもまだ受け付けなかった。
「大丈夫だよ。ソフィー。今日のうちに処理しておくから。安心して」
「ありがとうございます。お嬢さま。その……なんかすみません」
「気にしなくていいよ。でも、お嬢さまじゃなくて、『マンディ』って呼んでくれっていっているのに」
お嬢さまは気さくに笑う。
でも、まだお嬢さまを子供のときに二人きりでいたときのように『マンディ』って呼ぶことはできないでいた。
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