第12話
「あら、ソフィー。今日は髪型を変えたの?」
アマンダお嬢さまは、ちょこっと首を傾げる。
そんな小さな仕草なのに、肩から金色の長い髪がさらりと流れてとても美しい。
どこか憂いを帯びたような表情は、まるで天女のようだった。
そして、次の瞬間、いたずらっぽい微笑みを浮かべて、その
ネズミのしっぽのような中途半端な三つ編みがぴょこぴょこはねてなんとも居心地が悪い。
でも仕方が無いのだ。
ここでは髪を切ってくれる人がいないのだから。
お屋敷にいるころは、同僚の中に髪を切るのが上手い子がなんにんかいて、その子達にお願いしていた。
自分で切れる子もいたけれど、やっぱり人にやってもらうのと自分でやるのでは後ろから見たときのバランスが上手い子でも微妙に違う。
私は小さなころから、誰か髪を切るのが上手い人が必ず居るお屋敷で育ったので、今更、自分で切るというのは難しい。
王国にいたころはこまめに切っていた髪もここでは切ることができず、随分伸びてしまっていた。そのことに気づいた私はすこしでも見苦しくないように編んでコンパクトにしたのだ。
私は、自分のこの黒髪が嫌いだ。
お嬢さまがいた王国では、髪は金色、瞳はブルーが美しいとされいた。子供はみんあ淡い色の美しい髪に憧れる。
なのに、私の髪ときたら真っ黒。
呪われているみたいだ。
私はこの黒髪が大っ嫌いだった。
だからできるだけ、短く整えるようにしたのだ。
なのに、あの異世界からやってきたという美夢という少女は違った。
あの美夢という少女は、黒い髪を恥じる様子もなく、長く伸ばしていた。
そして、王太子をはじめ彼女に親しい男たちに、その髪を触らせていた。
あるときは、春の満開の花の下で花びらをつけ。
夏の新緑の枝にはほんの少し髪を絡ませ。
秋は色づいた木の根元で眠り、やはり完璧に美しい一枚を髪に飾るようにのせ。
冬は雪の降る中、フードや帽子、傘をさすことなく外にでて、髪に雪をほんの少しだけ積もらせていた。
異世界では、美優のいたという日本という国では髪に自然のものを飾るのが美しいとでもされているのだろうか。
せめて、薔薇の花など普通に誰もが美しいと思い、もうすこし鮮度が保てるものを飾ればいいのに、と私はいつも思っていた。
だって、美夢がわざわざ飾るその自然のものたちは、直後にやってきた男によって取り払われるのだから。
まったく、美意識があわない。
黒い髪より、お嬢さまのような金色の髪の方が美しいと思う。
だけれど、お嬢さま、さんざん私の髪をぴょんぴょんとはねさせて遊んだあと、私の三つ編みをほどいてしまった。
「お嬢さま……?」
「せっかく、綺麗な髪なんだからもっと見せて」
そういって、お嬢さまは私の髪を一筋手にとって、キスをした。
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