第7話

「ソフィー、お父様からたくさんの贈り物が届いたの!」


 私が家に帰ると、アマンダお嬢様は嬉しそうにそういって、私に抱きついた。

 手には手紙まで持っている。


 もしかして、とうとう公爵様は自らお嬢様の秘密を告白されたのだろうか。

 直接告げる勇気がなくて、手紙で……。


 私はちょっとだけ複雑な心境になる。

 こんなに大切なことを手紙で知らせるなんて非常識だという思いと。

 お嬢さまに今まで真実をお伝えしなかった自分がいるという罪悪感。

 私はこれからどう生きればいいのだろうか。


 お嬢さまを欺す片棒を担いだ私はお嬢さまの側にいることは許されないのではないのだろうか。

 だけれど、これから新しい人生を歩むにあたって困難なことがあるであろうお嬢さまの側にいて支えたい。


 私の中でさまざまな気持ちが入り交じって訳が分からなくなる。


 でも、子供のころから一緒に育った仲だ。

 お嬢さまが幸せな人生を送れるようにと思う気持ち。これだけは確かだ。

 そう、なにがあっても、どんな形になったとしても、私はお嬢さまを支えて見守ろうそう決心した。


 だけれど、次の瞬間それらの思いは全てふっとんだ。


「ねえ、見てお父様からのドレス。流行の形がいっぱいなの。今まで流行の形は、はしたないといって着せてもらえなかったから嬉しくて……ありがとう。ソフィーがお父様にお願いしてくれたんでしょ?」


 お嬢さまはうるうるとした瞳でこちらを見つめる。

 背はちょっと高くなったし、筋肉もつき始めたけれど、元々が華奢な体つきのお嬢さまは相変わらず美しく妖精のようだった。


「あ、いえ。確かに、公爵様に手紙は書きましたけど……」


 私は曖昧な返事をする。

 だって、私はアマンダお嬢さまが逞しくなられたのでそれにあわせた動きやすいお洋服をとお願いしたのだ。

 普通に考えて、ドレスじゃなくて、動きやすい男物の服を送ってくるべきでしょ。

 なのに、なんでよりによってドレスなんて送って来るんだ。

 あの馬鹿公爵は。


 だけれど、お嬢さまはとても喜んでいた。

 お嬢さまは今まで王太子の婚約者に恥じないようにと美しいドレスを着ていたが、デザインは限定された。成長してからは特に男であることがばれないように、よく言えば伝統的、ぶっちゃけると古くさいドレスばかり着せられてきた。

 それでも美しかったのはアマンダお嬢さまの本来の美しさがあったからだ。


 お嬢さまも年頃の少女(として育てられた)だから、流行ドレスにもそりゃあ興味があっただろう。


 今回だけ……。


 きっと、次にお洋服を公爵様にお願いする頃には、きっとお嬢さまは今より男らしくなって女性もののドレスは似合わなくなっているだろう。

 年頃の少女が憧れのドレスを着られずに、悲しい思いだけ残るのは可哀想だ。


 今、本当の意味で成長しはじめたお嬢さまは輝くように美しい。

 私も女だから分かる。

 自分が最も美しいと思っている瞬間に、一番好きな服を着たい。

 アマンダ様はきっとこの先も美しいだろう。

 けれど、ドレスを着る少女として美しいのは今、このほんの一時が限界かもしれない。


 それなら、その思いに水をさすことなんて、小さなころから一緒に努力を重ねてきた私にはできない。


「ありがとう。私こんなドレス欲しかったの。ソフィーのおかげね!」


 そう言って、お嬢さまはさらに強く私を抱きしめた。

 いいじゃないか。

 こういうのも。

 まるで小さい頃、一緒に人形遊びをしたときみたいだ。


「お嬢さまはどのドレスが一番お気に入りですか?」


 時間はあまり残されていない。一番好きなドレスから着せてあげなきゃ。


「えっとね。これ。ほら、ソフィーによく似合うわ」


 そう言ってお嬢さまが取り出したのは真っ白なワンピースだった。

 上品なレースがあしらわれて、シンプルで美しいドレスはちょっとだけ花嫁衣装に似ていた。

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