継母

第1話

「まだ、食べているのかい。ホント愚図だねえ。早くおし!」


 今日もお継母さまは私のことを見て、ため息をつきます。

 私がいけないのでしょう。

 小さな頃から、私は毎日こうやってお継母さまを悲しませてばかり……本当に情けない気分になります。


「ごめんなさい……お継母さま……」


 やっとの声で絞り出した声はか細く、蟲の羽音だってもっと大きいんじゃないかと思うくらいで本当に情けない気持ちになります。

 だけれど、私の謝罪を聞いたお継母さまは満足したのか、ふんっ、と鼻を鳴らしたあと、


「食べ終わったら、仕事をおし! お前の作る小物は評判で注文がたまっているんだ」


 そう言い捨てて、部屋をでていきました。


 すると、部屋は急に静かになります。

 私は急いで残っていた食事を平らげます。

 今日の食事はチキンのローストがメインでした。デザートには木苺。甘酸っぱさが少しだけ幸せにしてくれます。


 そして、お継母さまに渡された注文書を確認しながらアクセサリーを作ります。

 アクセサリーといっても職人が作る、高価な宝石を使ったものとは違います。小さなビーズを編んで宝石や金を使ったよりも安価に軽くアクセサリーを作るのです。


 ビーズのアクセサリーなんて庶民が好むものなのですが、お継母さまが身に着けたところ評判になり今やこうやって毎日注文書が来て、何ヶ月も待ってもらう状態です。


 注文書を読みながら、どんなご婦人がこのアクセサリーを着けるか想像します。

 真珠色の円いビーズに、海の色をした小さな粒、クリスタルの輝きを放つ滴。

 注文したのは人間になった人魚でしょうか。

 私は珊瑚色の鱗を持ち、きらめく星の光を紡いだような金髪の人魚の少女を想像します。


 すると、不思議なくらい指先が軽やかに動きます。

 小さなビーズを摘まみ、糸に通し編んでいく瞬間は自分でも夢見心地なのです。

 人魚だった少女が海の色のアクセサリーを着け、恋した人間を思いながら浜辺で歌う。


 私の指先はあっというまに、海底の泡を連ねたようなネックレスができていました。

 私は「ふうっ」とため息をついて、次の注文書に取りかかります。

 そんなことを繰り返して私の一日は終わっていくのです。

 毎日これの繰り返しです。


 夜になると、侍女がやってきます。


「お嬢さま、お待たせしました。今日は少しハチミツを分けてもらえましたので甘い紅茶がたのしめますよ」


 カラッとした気持ちの良い声です。

 彼女はまだ、私の本当のお母様が生きている頃から仕えてくれているのですが、何時も元気いっぱいで、ズバッと物をいうのです。

 そんな彼女に実はちょっと憧れています。


 そんな彼女はこの屋敷でも重宝され、私の侍女ではなく、お継母さまの実の娘である私の妹の侍女を命じられているのです。

 だから、こうしてゆっくりと話せるのはお互いの仕事が終わった夜だけ。


「お嬢さま、手を出して下さい」


 私は言われるままに手を出すと、侍女は小さな壺をだしてなにかクリームを塗ってくれました。「こんなに傷だらけにして……」と侍女はぶつぶつと言います。ひんやりと冷たいクリームが、侍女の手で丁寧に塗り込まれていくと血色が良くなった気がして嬉しくなります。


 侍女は私の身の上を可哀想だと嘆きます。


 本当は貴族の家に生まれた令嬢として何不自由のない生活が約束されているはずだったのに、内職をさせられているなんて。

 どうやら、私はとても可哀想で不幸らしいのです。

 よく分かりませんが……。

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