第5話
考え直してみると、なるほどということばかりであった。
まず、朝の別邸を眺めてため息をつくのはお飾りの妻が旦那様のいる別邸を見ながら悔しがっているところを旦那様の愛する方に見せつけるため。
きっと、優越感などが得られるし、お飾りの妻の存在がいいスパイスになるということなのだろう。
午後、決まった場所でお茶をするのもお飾りの妻がどこにいるか分かるようにするため。場合によっては、旦那様とすこし仲の良いところをみせて、旦那様の愛する人が今度はちょっと嫉妬をして、それもまたよいスパイスに。
といった感じなのだろう。
先日、手を振らなかったのは、気を遣ったつもりが失敗だったのがよく分かる。
「次からはきっと、よいお飾りの妻を演じて見せましょう。私の舞台をさあ、ご覧あれ!」
気づくと、真夜中。私は旦那様のいないベッドの真ん中に立ち上がり、そう叫んでおりました。
淑女としてもお飾りの妻としても相応しくないけれど、誰もみていないのだからいいことにしよう。
そこから私のお飾り妻業務はより、目的意識を持ったものに変化した。
旦那様が本邸に顔を出したときは、思いっきり歓迎した。
今まではどうせすぐに別邸に帰りたいだろうと、帰ってきても簡易的に挨拶を済ませるだけだったけれど。
たまに
いままで、手慰み(実家にいたころは内職)としてハンカチに刺繍をしても、旦那様に渡すことは無かったけれど、最近は渡すことにした。
考えてみれば刺繍用のハンカチも刺繍糸も旦那様が買ってくれたものなんだから、こうすれば無駄にならないし、また旦那様の愛する人へのアピールになる。
愛は障害が大きいほど燃えるって言うしね!
旦那様の反応も上々だ。
最初は驚いたようだったが、すぐに状況を分かってくれたのか「ありがとうございます」といって微笑んでくれた。
感謝される仕事ができているって素晴らしい。
これも、
私がいろいろ考え込んでいると、みんながアドバイスをしてくれたのだ。
メイドは、「奥様、せっかくなのでその刺繍されたハンカチをプレゼントされてみてはいかがでしょう?」
執事は、「旦那様は最近こちらの書物を甚くお気に入りですので、そちらについてお話してみてはどうでしょうか」
庭師は、「奥様、旦那様のいる別邸に花を届けてはいかがでしょうか」
料理人は、「奥様、今日の夕食のメニューは旦那様の好物なのですが、一緒に作ってみませんか」
という感じだ。
みんなで協力して仕事をするって楽しい。
毎日、いろいろ忙しいけれど、なかなか充実した日々だった。
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