第2話 日課の静かな時間

 いつも通り、王国からの遣いの彼とお茶を飲みながら話をしたあと、私は日常のあれこれを済ませる。


 ただ、早起きして大抵のことは片付けてしまっているし、一人分の食事は簡単なものを少しつまむだけで十分なので特にやることはない。


 刺繍でもすればいいのだけれど、昔からあまり好きではない。貴族の娘の嗜みとして出来ないことはないのだけれど。




 だから、私は書き物をする。


 読書と違って、字を書くのはそんなに何かをじっとみつめなくて済む。手癖でかけばいいので。


 物語でも紡げれば良いのだけれど、どうやら私にはそんな才能はないらしい。


 どうせなら元婚約者のことを面白おかしく書いてやろうと思ったのに、私にはただ起きたことをそのまま書くことしかできないらしい。


 あとはやることと言えばクローゼットの整理。


 別に衣装持ちというわけではないのだけれど、なんだかんだと生きていると物が増えていく。


 王太子の婚約者であったときの季節一つ分の衣装も今はもっていないというのに。自分でやるには結構、大変だ。


 レースもリボンもない飾り気のない服がならぶ。


 でも、これだって十分贅沢だ。


 普通の庶民はこんなにたくさんの服をもっていない。


 どれも清潔。


 ほころびているところや弱くなっているところがないか、触りながら確かめる。


 一番奥に、一枚だけ一度も袖を通したことのない上等なドレスがある。私のウェディングドレスだ。


 艶々としたシルクに何種類ものレースに宝石。たぶんこのドレス一枚で国民全員を一冬温かい場所でお腹いっぱいご飯を食べさせてあげることができるくらいの予算が付けられていた。


 もちろん、あまりにも高価すぎて誰かに売り払うこともできなかったのでここに大切に保管している。


 クリーム色のドレスが私のクローゼットで静かな光を秘めている。


 それだけで、私自身は着飾らなくてもよいと思えるくらい美しいドレスだった。


 ドレスを作るとき、「花嫁のドレスは純白と決まってます!」と侍女頭が口うるさくいっていたのが懐かしい。


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