蒼の脅威

『ゴブーーーー!!』

『ゴブーーーー!!』


 周囲のゴブリンたちは活気付く。

 目の前の蒼いゴブリンが現れた、そのことだけでこの状況を作り出した。

 ゴブリン達の英雄、それが目の前の存在だと理解できた。


「‥‥」


 男は目の前の蒼いゴブリンを見ても表情を変えなかった。だが、その場で立ち止まると、正眼に構え、相手の動きを見極めることにした。

 蒼いゴブリンは男の存在を認識して、大斧を振り上げると、ブルンブルンと片手で振り回し、ゆっくりと歩いて男との距離を詰めていく。

 男と蒼いゴブリン、双方ともに力を感じていた。

 互いの距離が近づけば使づくほど、その力に圧倒され周囲のゴブリンたちは押し黙った。そして、互いの距離が互いの間合いに重なった瞬間、


「シッ!」

『ゴブ!』


 互いの得物を撃ち合った。

 力はゴブリンが上回ったため、男は後ろに下がらされた。

 速さは男が上回ったため、ゴブリンは後ろに下がらされた。

 互いに同じ結果になった。だが、ただ一つ明確な差が有った。

 ゴブリンの大斧は欠けていた。それに対し、男の剣には傷がついていなかった。

 二人の技量の差か、それとも純粋な武器の差か、それは明確ではない。だが、その事実は酷く蒼いゴブリンを怒らせた。


『ゴブーーー!!!』


 目は血走り、猛然と大地を踏みしめると、先程以上のスピードで男に突っ込んできた。

 

「ッ!?」


 男は咄嗟に横に飛んで躱した。だが、急な行動だったために体勢を崩してしまった。

 蒼いゴブリンはそのスキを逃さず、大斧を横薙ぎに振るい男に斬りつけた。


「チィッ!」


 男は自身を守るために剣で大斧を受け止めようとした。だが‥‥


「があっ!?」


 男は蒼いゴブリンの一撃を受け止めるとこが出来ずに吹っ飛ばされた。

 地を一度、二度、跳ねて漸く勢いが弱まった。


「‥‥ッ、イテェ‥‥」


 男は泥だらけになりながら、立ち上がった。

 蒼いゴブリンとの距離は目算で10メートルほどは離れていた。人一人をそれほどまで吹き飛ばす力を青いゴブリンは持っていた。


「これは‥‥ちょっと、ツライかな‥‥」


 男は思わず弱音を吐いていた。

 男の足はフラフラで、剣を支えにして、漸く体勢を支えていた。

 だが、その眼はまだ死んでいなかった。


『ゴブゴブゴブーーー!!!』


 蒼いゴブリンは男にトドメを刺そうと、意気揚々と迫ってくる。

 距離を一気に詰めようとはせず、ノッシノッシと大地を踏みしめてやってくる。

 ゴブリンはもう男に反撃する力はないと思っている。

 近づいて、大斧を振るうだけで、男が倒せると信じて疑わなかった。


『ゴブーーー!!!』


 蒼いゴブリンは男に近づく過程で、大斧を振り上げた。そして、徐々にスピードを上げていき、走り出す。

 男を目掛けて、振り下ろす未来が未来が蒼いゴブリンには見えていた。


『ゴブーーー!!!』


 蒼いゴブリンは男目掛けて一気に大斧を振り下ろした。だが‥‥


「ハアッ!!」

『ゴブッ!?』


 男は一瞬で蒼いゴブリンとの距離を詰めると、首を目掛けて剣を振りぬいた‥‥‥‥はずだった。


「なっ!?」


 ‥‥‥‥残念ながら、男の剣は蒼いゴブリンを斬り裂くことは出来なかった。

 男は敢えて、動かなかった。

 動かず、体力の回復に努めて、蒼いゴブリンが油断するのを待っていた。そして、男の目論見通りに事は進んだ。後は男がゴブリンの首を斬ることだけだった。‥‥ただ、それだけが出来なかった。


「クッ‥‥」


 ビクとも動かなかった。

 男が全体重を懸けて、圧しつけても傷すらつかなかった。

 蒼いゴブリンも突然の状況に困惑をしていた。首に刃を当てられ、身体を強張らせていた。

 だが、今は‥‥‥‥勝ち誇っていた。

 たかが人間如きに、俺の首が取れるわけがない。そう勝ち誇っていた。そして、怒りに打ち震えていた。たかが人間に恐怖を感じたことに、与えたことに、激怒した。


『ゴブーーーー!!!!』


 男を殴り飛ばした。鼻息荒く、怒りに狂った表情を浮かべていた。

 男はまたも地を転がり、倒れ伏した。


「‥‥クッ‥‥ダメ、か‥‥」


 今度は男は立つことが出来なかった。そして、視界がドンドンと暗くなっていくのを感じ、男は意識を失った。

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