救出作戦
男とゲンは村を出て、東に向かって馬を走らせた。
「いいか、これから向かうのは東の方にある鉱山村の跡地だ。ゴブリン共は村の跡地を住処にしてやがる」
「村の跡地って、何時から人がいなくなったんですか?」
「‥‥半年程前だ。村に突如現れたゴブリンたちに大勢の人間が殺されたんだ。それで生き残った奴らは村を捨てて、逃げたんだ。うちの村にも数人がやってきて、今ではうちの村の住人だ。そいつらが言っていた、ゴブリンの親玉は‥‥蒼い体表だったそうだ」
「蒼い、体表‥‥」
「とにかく、蒼いゴブリンを見かけたら逃げろ、って事だ。‥‥っ! 早速ゴブリン共が見つかったぞ!」
前をよく見れば、緑色の存在が一体、視界に入った。
「どうやら、拠点に戻ろうとしているようだな。ここで、時間を取られる訳にはいかない。無視して進むぞ!」
「‥‥いや、帰りの事を考えると、ここで倒しておく方が賢明です。頼むぞ!」
男は手綱を大きく振って、馬を加速させる。そして、一気に左側からゴブリンに迫り、剣を引き抜き、首を刎ね飛ばした。
「ふぅ、ありがとうな」
馬に礼を言って、少しペースを落とす。
すると、後ろからゲンが追いついてきた。
「可能な限り倒していきます。帰りを考えると、村への道中にいる分だけは倒しておかないと逃げるに逃げれません」
「あ、ああ。俺よりもよっぽど戦い慣れているみたいだし、お前の指示に従うさ」
それから、ゴブリンの拠点にたどり着くまで、更に二体のゴブリンを葬ると、目的地が見えてきた。
「ゲンさん、アレが‥‥」
「っ! ああ、あそこが棄てられた村だ」
遠くから見ても、とても人が住んでいるとは思えない、ボロボロな状態だった。それが近く付くほど、なお一層、酷い有様が良く分かった。
村の近くの森に馬を止めて、周囲を警戒しつつ、村に近づいていく。
「‥‥確かにゴブリンがいるな」
木々に姿を隠しながら、村の様子を伺うと、至る所にゴブリンたちがいた。
それも武装をしているものが多い。‥‥ただ、『武装』というには、随分とみすぼらしいモノだった。
武器は木の棒、石を巻きつけた斧や槍の様なモノ、身を護るモノは何もなかった。
あれくらいなら、さして問題はない。男にはそう確信があった。だが、今回の目的はゴブリンの全滅ではなく、村人の救出だ。
男一人であれば、問題なく対処が出来ても、囚われた村人には出来ない。であれば、まずは村人を見つけ、脱出の算段を取り付けた後、一人でゴブリンと戦う方が良さそうだと、考えた。
まずは村人が囚われた場所を探していると、手を繋がれた女性が視界に入った。
「ゲンさん、あそこ‥‥」
男は見つけた場所を指差すと、ゲンは視線を向ける。
「アレは‥‥サンだ。間違いねえ」
遠くからだが、ゲンには確信が持てた。
「なら、あの場所に一気に攻め込んで、救出してください。ゴブリン共は俺が引き付けます」
男が剣を引き抜くと、ゲンは息を呑んだ。
「いいのか‥‥それで?」
「ええ、俺一人なら、危なくなれば逃げればいいので大丈夫です。だから、ゲンさんは彼女を連れて、ここを早くに離れてください」
「‥‥分かった。サンを連れて村に戻る。だが、サンを村においてきたら、俺は戻ってくるぞ。そして、お前を連れて帰る。いいな!」
ゲンが拳を男に向かって突き出した。
「フッ、ええ。頼みます」
男はその拳に自分の拳を優しくぶつけた。
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