吾輩は猫であった

吾輩は猫である。名前はまだない。

そんな吾輩は今、生まれて初めて『猫カフェ』なる場所に来ている。

いや、『猫カフェ』というものがあるのは知っていたが、来るのは初めてだ。

「にゃーん」

そして目の前で甘えた声を出しているのが、このお店の看板猫らしい。名前はミケちゃんと言うそうだ。

黒と白のハチ割れ模様をしたオスの三毛猫で、尻尾が二股に分かれているところからこの名前になったとか。

「…………」

だがしかし、そんな可愛らしいミケちゃんも、今は不機嫌そうな顔つきをしていた。その理由は明快だ。

『あの……ミケちゃん? さっきから何してるんですか?』

そう、先程からずっと、ミケちゃんは自分の身体を舐め回しているのだ。それも執拗に。

正直、見ていて気持ちの良い光景ではない。『あぁ……ごめんなさい。ちょっと気になっちゃって』

気になるというのは、自分の毛づくろいのことだろう。確かに三毛猫と言えば、全身これ毛皮みたいなものだし、定期的に毛づくろいしないと不潔感が出てしまうかもしれない。

『えっと、それは良いですけど、もう十分じゃないですか? 凄く綺麗になってますよ?』

「みぃー」

だが、それでもミケちゃんは止まらない。一体どれだけ毛づくろい好きなんだろう。『あの、ミケちゃ―――きゃっ!?︎』その時だった。突然店内の照明が落ち、辺りが真っ暗になったのは。

どうやら停電してしまったようだ。こんな時になんて運が悪い……。

すると、次の瞬間―――。

『キャアァッ!』

突如として、女性の悲鳴が聞こえてきた。

『な、なんでしょうか今の悲鳴は……』

「みぃ?」

その甲高い声には聞き覚えがある。これは確か、この店の店員さんの声ではなかろうか。

『ちょ、ちょっと待って下さい! 私、何もしてませんからね!?︎』

続いて、今度は男性の声が響いた。この声の主も知っている。先程ミケちゃんを撫でていた人だ。

『違うわ! 私はただ、貴方の手が気になっただけよ!』

『手?……あっ!』

そこで男性は気づいたようだ。自分が無意識のうちに、ミケちゃんの手を掴んでいたことに。

『す、すみませんでした。痛かったですよね?』

「みぃ……」

そして謝罪する男性に対して、何故かミケちゃんは不服そうな顔をしていた。

『でも、どうして急に停電なんかしたのかしら?』女性の方が疑問を口にした直後、再び店内の照明がついた。どうやら復旧してくれたらしい。良かった……。

『あれ? ミケちゃんがいなくなってる……』

安堵のため息をつくと同時に、男性の呟きが耳に入った。

確かに周りを見渡しても、さっきまでそこに居たはずのミケちゃんの姿がない。

一体何処へ行ってしまったのだろうか? それから程なくして、他の客達がざわめき出した。

なんでも先程の停電の時に、誰かが入り口の方へと走っていく足音が聞こえたというのだ。もしそれが本当なら、きっとそれはミケちゃんに違いない。何故なら彼女はまだ子猫なのだから。

その後、店内に残っていた人達にも手伝ってもらいながら探したが、結局見つからなかった。

そしてこの時から、吾輩はこのお店の常連となることを決意するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

AIミステリー あき @COS部/カレー☆らぼらとり @aki0873

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る