AIミステリー
あき @COS部/カレー☆らぼらとり
犯人はおまえだ
「犯人はおまえだ!」
そういって自称名探偵が指差したのは俺だった。
「はぁ?」
ここは渋谷スクランブル交差点の中心。突然のことに俺は唖然として立ち止まったが、周りの通行人は奇妙な目で一瞥くれるもすぐに進行方向へ顔を向けて歩いていく。
俺は慌てて自称名探偵に詰め寄った。
「なんの話だよ!?」
「この前、僕と君が初めて会った時さ、君は僕のことを見て『何やってんだ?』って聞いたよね? その時僕はこう答えたはずだよ。『推理をしている』ってね。
たしかにこいつはこういうやつだった。いつも考え事をしているように見えて、脈絡もなく突飛なことを口にする。だから、こいつは自称名探偵と言われている。
「推理って、なんのだよ。」
「あ、信号が変わってしまう。とりあえず、渡ってしまおう。」
「お、おい。」
自称名探偵は、返事をせずに横断歩道を渡り始めた。仕方なく、そのあとについて行く。
「なんだよ。話があるなら歩きながらでもできるだろう?」
「うん。そうだね。それじゃあ早速本題に入るけど……。」
自称名探偵はポケットから何かを取り出し、自身の手のひらに乗せて見せた。
どうやら丸まった紙のようだ。
「これ、捨てたでしょう?」
そう言われたが、それは見覚えの全くないものだった。またこいつの妄想か……。
こいつと話している時間はない。俺は話を無視して、駅へと向かう。
「待ってくれ!これは大事なものなんだ!!」
必死に引き止める声が後ろから聞こえたが無視した。あいつは放っておいてもいいだろう。
「頼む!!お願いだ!!!」
しかし、自称名探偵の声は次第に大きくなり、ついには泣き出しそうな声で叫んだ。
俺は振り返り、言ってやる。
「犯人はおまえだ」
「へ?」
自称名探偵はキョトンとしている。
「そっくりそのまま返してやるよ」
俺はニヤリと笑い、自称名探偵の顔の前に持っていた紙を突きつけた。
「おまえ、あの時の紙を捨てただろ?」
「えっ……あ……」
「ほれみろ。やっぱりな。」
「ち、違うんだ。あれは君へのヒントで……」
自称名探偵はモゴモゴとはなす。
「ヒントってなんだよ。そもそも、事件なんて起きてないじゃないか」
そういうと、自称名探偵は真剣な顔で言い返す。
「いや、事件は起きた。確実にね。」
「どこがだよ。」
「いいかい?まず第一に、この事件には被害者がいない。つまり、殺人ではないということだ。第二に、凶器がない。第三に、死体もない。そして最後に、これが重要なんだけど、現場に血痕がない。」
「そんなもん当たり前だろう。」
そう言っている合間に、俺は改札を渡った。後ろでに手を上げる。
「どうやら、時間切れのようだな。もう一度事件を整理して、くれぐれも真相を明らかにしてもらいたいものだな、名探偵くん」
ホームに電車が到着したので、乗り込んだ。
「ま、待ってくれ!」
自称名探偵が追いかけてくる。
「しつこいぞ!これ以上つきまとうなら警察を呼ぶからな。」
「わ、わかった。諦めるよ。」
自称名探偵はしょんぼりと肩を落とした。ようやくわかってくれたか。これでもう付き纏われることもないだろう。
「ところで、この紙はもらっても良いかな?」
「好きにしろ。」
俺はそっぽを向いて言った。
「ありがとう」
「礼なんか言うなよ。もともとお前のもんだろ?」「うん。でも、どうしても感謝を伝えたくてさ。本当に助かったよ。ありがとう。」
「だから、うるさいって。」
プシューっと音を立ててドアが閉まる。
「あーあ、行っちゃった。」
自称名探偵はため息をつくと、俺の乗り込んだ電車を目で追いかけた。
「あと少し、だったのに。」
自称名探偵はニヤリとほくそ笑んだ。
*
「まあいいか。時間はまだまだあるしね。」
「ふぅ……」
僕は椅子にもたれかかった。今日一日で起こった様々な出来事を反すうする。
朝、学校に行く途中で、僕と同じ学校の制服を着た女の子がナイフを振り回しているところを目撃した。
ナイフと言っても、何も切ることができないバターナイフだ。多分、遅刻少女のトーストのくだりで、バターを塗るところも含めちゃったやつだと思う。振り回すうちにバターがついたらしく、そのバターナイフを眺めながらニヤついていたから間違いない。
その後、彼女を追っていた刑事さんと会って話を聞いた。どうやら彼女は連続通り魔事件の容疑者らしい。
しかし、その犯行方法は不可解な点が多く、被害者と思われる人間のすべてが消去されるのだ。そう、すべて。
どうやら、被害者の存在がなくなると同時に、人々の記憶からも消去されることで、完全犯罪が達成されているらしい。僕はその事実を確信した。なぜならば、僕自身がその状況にあったからだ。
つまり、あの時彼女が起こした事件は、僕の身に起こっていたことと全く同じだった。
僕も彼女も、人間を抹消することができる能力を持っている、ということになる。ということは、彼女の能力は『消失』か……。
「それじゃあ、また明日な。」
友人の健人が教室を出て行った。
「おう!また明日!」
返事をして、彼の背中を見送る。
そういえば、あいつ最近元気ないなぁ。何かあったんだろうか。
まさか、あいつもまた『消失』の能力の持ち主で誰かを消していたとしたら?
そうかーーー。
この街のすべての人間が、『消失』の能力を有しているとしたら……?
この事件の容疑者は、この街の人々全員となる。
なるほど、振り出しに戻るってわけか。
しかし、この犯人は一体誰なんだ……?
「ただいま」
家に帰ると誰もいないことは分かっていたが、習慣として声に出してしまう。
玄関にある靴を見ると、親父の革靴と母さんのパンプスがあった。
二人はまだ帰ってきていないようだ。
ベッドの上に腰掛け、今日、あいつに言われた通り頭の中を整理する。
この事件は、被害者のいない被害者消失事件。
容疑者は消失の能力をもつ、この街の住人全員。
犯行動機ももちろんわからないのだが、そもそも能力の発動方法がわかっていない。
それなのに、『消失』の能力を僕は観測している。
「やっぱり、おかしいよな……」
ポツリと呟く。
今までの経験上、この世界には、不思議なことが起こるものなのだ。
それが今起こっているだけに過ぎない。
そう思うことにした。
「そうだ。そうに違いない。」
自分に言い聞かせるように繰り返しつぶやく。
犯人は、まさか、僕?いや、そんなはずはない。
僕は人を傷つけるようなことをする人間じゃない。
ましてや、人を消すなんてありえない。
でも、もしも本当に、僕がこの事件の犯人だとしたら…… その時、電話が鳴った。
「はい、もしもし」
慌てて受話器を取る。
「もしーもす」
聞こえてきたのは聞き覚えのある声だった。
「お兄ちゃん、久しぶりだね」
妹の声である。
「ああ、久しぶり」
「ねぇ、私、あの事件の犯人、知っているの」
「あの事件って?」「とぼけないでよ!私がやったって思ってるんでしょ?」
「なんのことだよ」
「私のせいにしていいからさ、助けてよ」
何を言っているんだ、こいつ。
「どういうことだ?」
「もう、わかってよ!」
「何が?」
「全部お兄ちゃんなんでしょ?」「だから、何が?」
「私、消えたくないの」
「えっ!?」
「お願い、信じてるから。」
ブチッと切れた。
「おい、ちょっと待ってくれ!」
ガチャっと音がして通話は終わった。
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