ボッチはネズミ捕りに引っかかる
「藤村が俺の依頼に積極的になってくれてるのは結構なことだが、明らかな苦手分野における土俵で俺を巻き込むなって」
「──食べたわよね?私の奢りで、大層ボリュームが満点なカレーセットを」
チッ、そう来たか。ああはいはいそういうことですか。
まるで美味しそうなチーズに引っかかった哀れなネズミのようだな今の俺は。
だったらこっちにも考えがあるぞコンニャロめ。今日の俺は一味違うぜ。
いつまでもお前に言い負かされているだけのワンコじゃねえんだよ。
「まだ食べ切っては居ないぞ」
「なに小学生みたいな駄々をこねてるのかしら」
「もう半分はお前に返すから、これでチャラにしないか?」
「あなたご飯が美味し過ぎて脳みそが幼児退化でもしたのかしら?」
「俺は思いやりのある人間だからな。藤村にもこのデラックスカレーの魅力を共有しようと思って」
それに人から何か貰いっぱなしにされるのは何だか気分が落ち着かないからな。
「私がこんな皆が見てる前でボウフラと恋人ごっこをするとでも思ったのかしら?」
え……それって2人きりだったら承諾してたかも知れないってことか?
いやそんな訳ないですよね何ならまた俺を変な呼び名で呼んじゃってるよこの人。
「それにどっちみち嫌よ。私は食事にはうるさいから他人の唾液が混ざり得る食べ物は口に入れたく無いもの。あなたは汚いとは思わないのかしら?」
う……確かにそう来られてしまったらこっちからも無理強い出来なくなるな。
俺も人の食器やスプーンとフォークを使えと言われたら無理な相談だ。
恐らく長い間に培われたボッチ観の一種だろうが食での美意識が異常なのかもな。
「そうだな。じゃあまた今度なにか買ってあげようか?欲しいものがあれば言ってくれ、お小遣いの範囲内であればプレゼントするよ。日頃の感謝を込めて」
「日頃の恨みの間違いじゃないかしら?それに遠慮しておくわ、私は基本的に無欲だもの。それに今まで女の子に贈り物をしたこともない人間が良くもそんなことを言えたわね?」
確かに俺もそうだな、読書はインターネットさえあれば出来るわけだし。
俺がもう一つの趣味でやってる自重トレの類も大した器具が不要だ。
同年代の女の子に対して贈り物をする機会が無かったんだから仕方ないだろが。
「ぃ……初めての相手がお前になるわけだから、そこは善処しておくよ」
「あら、ご飯に誘われただけでもう彼氏ヅラなのかしら?物凄く痛々しいわね」
「ふざけんな。人から貰った好意を素直に受け取っただけなのに、詐欺師の如くこんな仕打ちをしてまで俺を騙すような人間と付き合えるわけないだろうが」
自分が可愛いからってまた随分と調子に乗り始めたぞこいつ。
「簡単に騙される方が悪いのよ。それにあれは好意ではなく悪意ね」
「やっと本性晒しやがったな。はあ……よし、また今度お前にデラックスカレーの大盛りセット奢ってやるからこれでこそチャラにしてくれ」
「高嶺の花であるこの私がその辺の男の気軽なデートの誘いに簡単に乗ってしまう程に軽い女にでも見えてたのかしら?それにカロリー過多な料理だし、お断りするわ」
「別に月に数回くらいはこういうの食べても良いんじゃないの?たまにチートデイ設けても自分のダイエットに支障をきたす程のことでも無いだろ」
自慢じゃないが家では毎朝起きたら運動を継続してるし、特に朝と晩の食事にも気を使ってる要素もあるおかげで、無事に割れてる腹筋を維持出来てるしな俺。
それに藤村の場合は全ての栄養分が女の子な部位に行きそうなイメージだし。
こいつの特徴的な性格故にあまり意識して来なかったが、藤村は男子曰くDカップだし下半身のスラっと伸びた綺麗な足がモデルのそれみたいで美しいと思ってる。
「乙女に向かって何を言ってるのかしら。……どうやら荒牧くんは私を敵に回したいようね?その際に片岡先生も呼んであげようかしら?」
藤村が乙女だと?人を虐めるのが大好きな悪魔野郎が一体何を言ってるのかね。
笑いを狙ったボケだとしたら盛大に滑ってるぞ。ママの子宮から出直して来いや。
「お前が乙女だったら他の女子はときめいただけで心筋の血管が破裂してぶっ倒れそうなもんだな。それに2対1とか卑怯だろ!」
「そんなに荒牧くんは自分の将来を簡単に捨てたいようね。悔いは無いのかしら?」
くっ……どうやら片岡先生に嵌められた時から俺の意志は意味は無かったんだな。
「両足と手をロープで縛られたままサメの海へ飛び込めと脅されてるようだな」
「比喩じゃなくて実際に脅してるわね」
まあ集める人数はたった1人だし別に良い……かも?
それに藤村はどうやら俺と同様に友達が居ないようだからこれを機に作れば良い。
まあ仮に新メンバーを加えるならば女子生徒を連れてくるのが妥当だろうな。
クエストの勝利条件についてアレコレ考えていると藤村が更に補ってきた。
「それにこの間に私とぶつかって書籍を床にばら撒かせたこと、まだ許した覚えもないのだけれど?」
「はっ、いやお前それもう2週間くらい前の出来事だろ!何そんな一見どうでも良いような事をいつまでも覚えていられんの?今更持ち出すのは勘弁してくれよ」
こいつは絶対にアレだな。付き合い慣れたら厄介な彼女に変わるぞ絶対。
恋人と喧嘩に発展したら過去で相手が引き起こした些細なミスを取り上げて、ネチネチと触手で絡んでくるダイオウイカの如く絡んでくるタイプだろうな。
「あなたは私と出会った時からもうすでに詰んでいたのよ」
運命の悪い悪戯によって導かれたような出会いだな。俺と藤村のは特に。
「卑怯だな。けど今のセリフすっげえお前に似合ってたぞ、本当に悪魔のようだ」
「やかましいわね。負債を帳消しにしたければ私の言う通りにすることね」
わかっていた事だがこうも自分の無力さを痛感させられたら悔しいものがあるな。
まあこの際に彼女の手札を1つ切らせることが出来ただけで収穫だと捉えようか。
「最後まで集められる保証は無いぞ。それでも良いのか?」
「荒牧くんならどんな理不尽を突きつけられようとも必死に足掻くと信じてるわ」
こいつやっぱり一旦地獄に強制送還されて反省した方が良いんじゃないですかね?
今後も俺をこき使ってやろうって魂胆が見え見えだぞオイ。
「一体どこから来てんだよその謎の信頼は」
「私は人を見る目には多少の自信があるわ。それにあなたは後ろからチェインソーを振り回す殺人鬼から追いかけられたら、必死に足を回転させて逃げるわよね?」
「訴えられろ」
片岡先生から得た免罪符を存分にフル活用する気満々じゃねえか。
俺の小言を無視すると一切れの折り畳まれた紙を差し出された。
「それに、はいこれ。私の携帯電話番号に連絡先のアドレスよ。何かあったらここに知らせてきて頂戴」
それだけ言うと藤村は俺の隣で自分の昼飯に専念し始めた。
何というか……まさかの形で高校生になって初めて女子の個人的な連絡先を手に入れたぞ。
今までに何度か河南に交換しない?って誘われてきたけど断ってきたんだよな。
女子とのメールのやり取りって何をしたら良いのか全くわからないし。
何より女子とのメールで一言送信するたびに一喜一憂しては変に思われてないかなどと懸念しなければならないから、悩みの種は事前に潰しておくのが最善だ。
まあその初めての相手が藤村だけど。
別に全然嬉しくないからなッ!
そう思いながら周囲からの視線を億劫に感じながらも食事を再開させる俺だった。
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