ボッチは我がクラスの天使と対面する
「はあ、なんだか緊張するな」
──『なるべく河南に話しかけろ』。
……ボッチの俺にそんな課題を突きつけるなんて憎いぞおのれ藤村め……!
しかも相手は学年レベルでモテモテの女の子と来たもんだぞ。
昨夜に寝る前のベッドでいくら話しかけるシミュレーションをしてもアイデアが全く思いつけなかった。
こうして
おいマジでどうすれば良いんだよこれ……なんて考えてるうちに学校まで辿り着いてしまった。
いつも朝のHRまで読書に耽っていたから少々早めの登校が習慣になっていたんだが、考え事をしてたせいか出発もチャリを漕ぐスピードも遅くなってしまっていた。
案の定、駐輪場で並んでいたチャリの数が普段よりも多めだった。
「……っ……」
自分の教室に入ろうとしたところで足が止まってしまった。
女子が入口に固まってペチャクチャとどうでも良いことを喋っていたのだ。
まあそれだけなら教室の後方の扉から入れば良いだろと思うかも知れないが、今日に限ってなぜか鍵が開いていなかったのだ。
まあ朝はいつも俺が開けてきたんだもんな……じゃなくて。
どこの学校でも居るんだよなこういう困った奴らが。
こう言うタイプの人間に是非問いかけて見たいんだけど、広い教室には幾らでも話せるスペースがあるよな?
つまり教室のどこにでも話していても自由なわけだよな?だったらさ……。
──なんでわざわざ教室の入り口なんだ?
──なんでわざわざ教室の入り口で話すんだよ!?
そうやって自然に非モテの童貞の選択肢を奪うような真似はやめて頂きたい。
これは陰キャを殺す3大状況のうちの1つで対処に猛烈に困るやつなんだよ。
彼女たちが陣取ってる真横の窓から侵入したらそれはただの不審者だし、『邪魔だから退け』とその集団に声をかける勇気が俺にあるはずもない。
「……ふう……」
無理ゲーだと悟ったら選択肢は1つだ。逃げるは恥だが役に立つ。
俺はトイレに一旦駆け込んで個室に入って5分くらい時間を潰した。
最近ハマっていた甘焦れラブコメのネット小説を数話分くらい読んで気分転換できたことだし、よしまた行くか。
「うんうん、だよね〜それでウチさ、こないだ同じやつ買ったんだけど……」
マジかよまだ話が続いてたどころか、さっきよりもメンバーが何人か増えてる気がするんだが!?女の子ってほんと会話のレパートリーが豊富だよな。いくらでもお喋りで時間が潰せる印象があるんだが俺にはよく分からないな。
よく人気なアニメ作品では主人公がやたら交通規制したがるんだが、現実では主人公の俺がモブキャラに振り回されているんだが。ぐぬぬ……解せぬ。
これはいつまでも待っていてちゃ埒が明かないな。
そろそろ発狂するぞッ!!
「──あっきー!みゆー!皆もおはよう〜!」
叫びかけたところを別の女子が来たことで出かかっていた言葉を飲み込む。
「ありさおはよう〜!」
「おっはーアサリ〜!」
「おはようー!」
ワンサイドに三つ編みが胸辺りまで掛かった赤色の髪の女の子が教室にも響く程の声で挨拶すると、固まっていた女子の集団がそれに続いて挨拶し返す。
こんなにも高い音が連続で聞こえて来るのはまるで合唱だな。
「アサリ今日の髪型も可愛いね〜!」
「ほんとだ!シュシュも水色でいつもと違うね!」
「うんうんそうでしょ〜?褒めてくれてありがと。っていうか皆がこんなところで固まってちゃ通行の邪魔でしょ。ほらどいたどいた!」
彼女の一声で愚か者どもが自ら犯していたその大罪を自覚して懺悔していく。
今回はその子の顔を立ててこの俺様が寛大に許してやろうじゃないか。
笑顔とコミカルな手の動きから全く嫌味を感じられなかったのが凄いな。
「あはは〜そうだよね。ごめんごめん」
「確かにこれじゃあ迷惑だったね」
「皆であっきーの席辺りで喋ろ!」
そして人混みが弾けて道が開ける。声を張る手間が省けて助かったぜ。
すると赤髪の子が俺を無視して教室へ入っていくかと思えば、なんとなく予想はできていたが俺に満面の笑みを向けながら手を振ると挨拶してくれた。
まあこの子を相手に入室するタイミングが被ってしまったらこうなるか。
「ラップもおはよう!」
まるで野原に咲くハイビスカスかのような美しい笑みで、素敵な笑顔だな。
俺だって男である以上、こんな笑顔を向けられちゃドキッとしたり、気恥ずかしさに吃りながらオドオド返事して「天使だな〜」と思ったりする。
──そんな時期が俺にもありました。
「ああおはよう、河南」
だが俺は微笑を浮かべることもなく、ただぶっきらぼうに返事をした。
なぜならそんな青年が細やかな青春イベントで、いとも簡単に心揺れるような感受性はとうの昔に失ってしまっているからだ。
実は内心本当は嬉しい気持ちもあるが、面倒臭く思う感情が勝るのだ。
とはいえ陰キャも陽キャともこうして仲良くするタイプの人間だから、真の陽キャだと分類できるのが彼女を天使たらしめてる所以だろう。
「ラップ今日も寝癖ついてるよ!あはは、そういうところも可愛いね〜!」
そうやって俺を揶揄うこいつの名は
仲良い人たちからアサリというあだ名で呼ばれる事もしばしば。
うちのクラスの3大上位カーストグループのうち、ワイワイ楽しく騒いでる女子グループに所属している。
パッと見た感じはキャピカワ系な現代風のギャルっ子だ。
そのグループの中心的な存在なため、所謂クラスのマドンナというヤツだ。
そのサファイアのような青色の瞳に赤髪と、何よりそのボッキュンボンな女性らしい肢体が相まって非常に目立つ外見をしている。
藤村と違って制服のネクタイもリボンでスカートが短めだ。
謎に校則に触れるギリギリのラインを攻めてるなこりゃ。
「お世辞どうも。これは俺のブランディングのようなものだ」
そんな訳で当然こいつもクラスの垣根を飛び越えて男子から人気だ。
なんせうちの花園高校で「誰が一番可愛い?」と問いかけられたら藤村彩海とこの河南杏里沙とで票が真っ二つに割れるからだ。
だけど「癒しの象徴かのような天使でありながらも、ぶっ壊したくなる程のセクシーさをも兼ね備えてる」と言う男子の意見も多いことから河南が一歩抜きん出てる感じか。
おっぱい議論でも北半球と南半球に分かれるレベルで白熱した。
「弾力が豊富そうでボインボイン揺れそうな藤村のDカップが好きだ」
「いやいや手を押し当てたら吸収してくれそうな河南のEカップこそが至高だ」
とかなんとかでバカな会話で盛り上がっていた男子たちの会話も聞いたことがある。自分の哲学的な思想を語り出す奴もいたくらいだからガチの謎だった。
「本当だってば〜。あはは、ラップっていつも面白いこと言ってるよね」
勉強の方も1〜8組合わせて320人中の100位以内と決して頭も悪いわけではないので、周りからの評価が異常に高い、高嶺の花というキャラ付けだ。
改めて河南のプロフィールを振り返ればどれだけ目の前の女の子が上玉で、並大抵の男子であればそんな女の子に構ってもらえてる俺は前世でどんな徳を積んで来たんだよ、とか思って羨ましがるのかも知れない。
だがこのクラスという閉鎖空間を取り巻く人間社会の
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