ボッチになった元凶
「そうか?普通のことを言っただけだと思うが」
河南は誰にでも基本的に分け隔てなく優しくて、こうして俺のようなクラス内のモブキャラにも全員に1回は必ず話しかけているのだ。
普段自分のグループで楽しくやりながらも、今の状況のように定期的に周りの奴らとも話をするのだ。
だから大抵の男子が「一番仲の良い異性は?」と問い掛けられたら俺を含め、大半が河南杏里沙の名を挙げるだろう。
その誰とも隔てなく接しようと行動できる性格こそが彼女を人気たらしめている所以だろうな。
「だとしたら凄い才能よ?息するように私を楽しませられてるんだからさっ」
まさに天使のような存在だとは俺も思うわけよ。
けど1年生の2学期を境に俺に話しかける頻度が心持ち少し上がった気がする。
いや俺が漠然とそう捉えるぐらいなんだから、当然クラスの奴らも徐々に河南の奇行を疑問に思い始めたわけだ。
だが彼女の友人達が聞いても「いつものやつだよ?」の一点張りですっとボケてるから彼女のグループメンバーは俺たちの方を温かい視線で見守っているが。
今教室に入ると俺は自分の席に着いたんだが、当然のように河南は俺に着いて来てるくらいだから当然周りの視線も痛くて。
彼女がこんな行動をとるようになった原因の心当たりがあるとすれば1つだけあるんだが、アレはほぼ自業自得な結果だと思っているんだから本来彼女が気にするべきことじゃないはずなんだが。
でも彼女がこうして俺に話しかけるタイミングは決まって皆の前だし、俺の方からも思うことがあっても「辞めてくれないか?」と抗議する程のことでも無いから今日もこれからも俺は彼女の好きにさせることにしてる。
──俺自身もこの状況が満更でもないしな。
「はいはい、また俺の存在そのものがピエロだって言いたいわけか」
だがクラスの奴ら、特に男子陣はそんな俺と河南の絡みを不愉快に思ってる奴らも居るらしく、もう片方のリア充トップカースト女子グループからも俺は不気味に映っているから避けられているのだ。
均衡の一角とはいえ上位のカースト陣に「変なやつ」のレッテルを貼られたんだから結果は分かっていた。クラスで俺の話し相手は河南限定になった。
まあそもそも最初から俺に話し相手が他にも居たかはともかくとして。
週に数回とはいえ俺のお話の相手があの河南だという事もあって。
たまにひっそりと陰口が聞こえてきても俺に直接話しかけたりちょっかいを出すような真似をする奴も居なかったら。
時間が経つにつれて俺はクラスから完全に浮いた存在になってしまっていた。
──だから皮肉なことに、俺のボッチライフに拍車を掛けている最大の元凶が、この河南の行動だったりもするのだ。
事実こんな風に悪目立ちしてしまってる分迷惑な面もあるが、彼女も俺も互いへの関わり方を変えるつもりは無さそうだから、とりあえずは現状維持だな。
藤村の言ってた事が嘘か本当かは知らないが、仮にこの教室に俺を監視する役のスパイが居るとしたら俺は言いたい。
──今日の課題は合格だろ、と。
「むー相変わらず卑屈だな〜。ラップったらまたそんなこと言っちゃって」
残念だがお前の方にこんなことを続けさせるだけの動機があるかも知れないが、一ボッチとしちゃこんなにも好意的に接せられていると何か裏があるんじゃないか?と勘繰りたくもなるものなのだ。
なぜなら恋愛においてフラグの設置とその回収は大事だからな。
火がないところに煙は立たないのだ。
──なんせ秋に入るまでこいつと接点らしい接点は無かったはずだから。
まあ、最近では半分「やれやれ仕方ないか、まあ可愛いから許せる」という心構えで彼女とちょくちょく話をする時に思うようになってきた面もあるんだが。
「ん〜」
そうやってジト目を向けながらプクーっと頬を膨らませて抗議を示す様もやっぱり可愛いなコイツっ。
たまに彼女の頬を指で突いたりしてキャーキャー騒ぐ河南とその友人達のやり取りをたまに見かけるが、確かに目の前のこれを見せられたら共感できるな。
「どうしたんだよ、そんなフグみたいな顔作って」
「これでラップの元気が戻るかなって思って」
にかーっと笑う笑顔も素敵だが今日はなかなか踏み込んで来るんだな河南さんや。
「省エネはデフォルトだから気にするな」
「またよく分からないことを言う、もうラップってばガード固いなぁ……」
何それ俺の机で頬をふっくらさせながら軽く睨む姿も可愛過ぎるんだが。
……とは言えそろそろ男子諸君からの憎悪がこもった視線が不愉快になってきたから、俺は席に座ると鞄からラノベを取り出して読み始める。
いかにも「その表情を間近で見せてくれるなんて羨ましいぞ畜生!」だとか「チッ、なんでお前だけ」などのセリフが精神世界で飛び交ってることだろうな。
河南に対しては失礼極まりない行為だろうが、俺の口から「失せてくれ」なんて言う勇気はなかったので、こんな形で意思の伝達を図る事にしたのだ。
「ぁ……じゃあまた今度話そうね、ラップ!」
意図を察してくれたのか笑顔を浮かびながら小さく手を振ると、ぴゅーっと彼女のグループメンバーへの輪の中へと入って行った。
そして主に周りの男子達からちょっとした愚痴のようなセリフと冷笑を向けられたような気がした。
まあ本当にタイミングが偶然だったとしても、これは陰キャあるあるで他者からの目線や笑い声が自分に対して向けられたと思うものだ。
大体が自意識過剰の被害妄想でしかないと分かっていても、中学時代の告白からの日々が脳にチラつくのだ。
それもたまに本当に合っている時もあるから対処に困るやつだ。
「お〜し、それじゃあ小テストを始めていくぞ。最前列の奴らは後ろに回し始めてくれ。……よし」
最後の1人にまで届いたのを確認次第「ピッ」とタイマーのボタンを押した。
うちの花園高校は自称進学校なだけあって、こうして生徒を勉強に向き合わせる形式にはうるさい事が多い。
だがまあそれに反して校則は結構緩めだ。
制服指定日や試験当日以外は基本私服で登校するのが許されているし、頭髪や染めに対する規制も緩い。
まあ、俺は洗濯が楽だからという理由で制服で登校しているが。
そもそも大してお洒落な服も無いのにわざわざ着てくる勇気も理由も無いし。
個人的にこの制服割りと気に入ってるし。
それから勉学のレベルが高めなのに引き換えて体育祭と文化祭に対する力の入れようが半端ないのだ。
「大阪の高校は!?」と聞かれたら大体がこの花園高校の名をあげるからな。
──正式な名称は国立花園高等学校だ。
いかにもパリピと青春の聖地ってイメージの学校だし、国際文化科もあるくらいで現時点ではオーストラリア人が在籍中なはずだ。
……と今日は英語の小テストで瞬殺だったので余りの時間で暇していたのだ。
ふと、秋に起こったとある出来事の記憶が再生される。
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