ボッチは課題を突きつけられる



「ええ、もちろんそうよ?今までボッチを貫徹してきたあなたには分からないでしょうけど、あなたが漠然と捉えている『コミュ障』とやらの『コミュ』の正体がそれよ」


 勝手に俺にコミュ障のレッテルを張りやがって。


「ただ相手に自分が思ったことを伝え合うの、あなたにはそんなに難しいことかしら?」


 はっ、どうだか。こうして上から目線で説教かましてるようだが、ついにお前の主張に綻びが見つかったぞ藤村?


「コミュニケーションの意味くらい知ってるわバカにしやがって。……はあ、そう偉そうに言ってるお前こそちゃんと出来てるのか?」


 すると眉を顰めてただただ怪訝な表情を浮かべる藤村。


「何のことかしら。私がこうしてあなたに教訓を諭してあげてるんだから、指導役が間違ってちゃ本末転倒でしょ?」


 やがて俺をいつもの冷めた目で見下ろしてきた。


 まるで「言いたいことがあるならはっきり言ってみなさい」とでも訴えかけてるような。


 クククっ……そこまでお望みならお前の間違いを指摘してやろうじゃないか。


 この天才名探偵様がズバッと突きつけてやるよ。食らえ!


「お前は『コミュの正体は互いの思ったことを伝え合うこと』だと言ったんだが可笑しくないか?普段からお前が意見を主張するたびに相手を従わせてるだろ。それが果たして『思ったことを伝え合う』ことになるのか?」


 渾身のドヤ顔で言ってやったぜフハハハハハ。


「当然でしょ。クラスの人たちが私に意見を求めたり自分が正しいと思ったことを伝えるたびに、彼らはちゃんと賛同して納得してくれるもの。それが例え「はい」だけで終わる返事だったとしても立派な『思ったことの伝え合い』になるわ」


 いやいやそれは相手をただただ論破して言い負かせただけのやつだろ。


 今までの会話から1つわかったぞ。こいつは絶対に、アレだ。


 自分の存在そのものが崇高なものだと勘違いしているナルシストに違いない。


 さっきの意見も聞いた感じだと周りは彼女の主張に頷いてるイエスマンばっかりじゃねえか。


 流石パリピフィールド。ノリにはついて行けんわ。


 そりゃクラスの人間や一般男児からすれば頼りになる大人のお姉さんに見えるんだろうな。


 きっとそんな自分に酔いしれてるんだ。そうだ藤村だって女の子に変わりないのだ。うわ……ダメだこいつ早くなんとかしなければ。それに、


「……相変わらず上から目線なのがムカつくな……」


「あら。あなたが私を上から目線だと感じてるのは、あなたが下から目線になって私を見ているからでもあるのよ?」


「くっ……」


 その小馬鹿にしたような微笑に何も言い返せねえのが悔しい。


 それに彼女と2人きりになってからの会話を振り返ってみても大体の意見に理屈が通ってるようにも感じた。


 俺も論理的な思考の持ち主なはずなんだが一歩及ばないようだ。


「さて、これで人間との会話シュミレーションは一旦終了ね。体験入部に私と話してみた感想はどうだったかしら?」


「……ふぁ?」


 ついに頭が沸いたのか。なぜ俺は今そんな感想を聞かれてるんだ。


 しかもそれじゃあまるで俺が人間以外の何かと話してるとでも言いたげだな。


 俺は別に人形に向かって語りかけるようなもの好きじゃねえよ。


「私のような可愛くて美人な女の子とこうして会話が出来さえすれば、大抵の人間とも話せるようになるわ。これで少しはマシになったんじゃないかしら?」


 くっ……そのドヤっとした笑顔が超ムカつくんだよ。


 周りからの評価が高いからって随分と調子に乗ってるようだな。


 ここは今後の戒めのためにもガツンと言ってやらないとダメのようだな。


 よしじゃあ強烈な一発ガツンと……!


「残念でした〜。そもそも、そういうのし俺は別に人との会話が出来ないわけじゃない。ただ不必要な会話を無駄だと感じてるだけだ。だから俺は今のままの自分でも全然構わないと感じてるんだが」


 すると藤村は少しだけ驚いた表情を浮かべた。


「そうだったのね……けどそれなら余計にタチが悪いじゃない。つまり折角あなたのような生粋の陰キャに構ってあげている天使のような存在が居ると言うのに、あなたはその人の善意を拒絶してる訳よね?」


 ギクっ。驚いた。これが女の勘というヤツだろうか。


「だったらその子のためにも無駄な意地を張ってないで天邪鬼演じるの辞めてあげたら?」


「っ……あいつは基本的に誰にでも分け隔てなく優しいから例外の存在なんだよ。特別に俺のことをどうこう思ってるなんてことは無いはずだ」


「ふーん。……だったらあなたに課題を1つ与えるわ」


「なんだよいきなりなヤツだな」


 一体どんな無理難題を突きつけて来ると言うんだ。


「毎日1回はその人とお話ししなさい」


「……は!?」


「もし向こうから話しかけられたらクリアよ。けど大事なのは自分から積極性を見せることね。だからなるべくあなたの方から向こうに話しかけるようにしなさい。第一声は挨拶とか勉強の話、あそこでヤギがプリント食べてるわよ、とかでもとにかく何でもいいわ」


「…………な、」


「うん、そうね。先ずはその一匹狼な状態から脱出するためには人と会話する必要があるわ。これであなたの灰色な学校生活にも一滴の色が加えられると良いわね。言っとくけどあなたのクラスに見張り役を立てておくから、虚偽の報告をしようと考えても無駄よ」


 思わず反応が遅れてしまう。この人は一体何を言ってるのだろうか。


 エラー発動中……エラー発動中……。


 まさかのまさかだとは思うが……藤村は領域展開したのだろうか?


 ……いまいち情報が完結しない!?


「──無量空処むりょうくうしょ……藤村お前……呪術師だったのか?」


「はあ、何をバカなことを言ってるのかしら。私の話をちゃんと聞きなさい」


 俺が一匹狼なのは認めるけど、歯に衣も着せぬ言動で人を遠ざけてるのはお前も同じじゃないのか?そうだとしたら完全にブーメランだと思うんだが。


  それに見張り役ってなんだよオイ俺は観察されながら学校生活を送るのか?

 仮に灰色だとしても俺はそれなりに楽しんでるんだが。疑問も多いな。


「……俺がその課題と向き合わなければならないのは絶対なのか?」


「もちろんよ。あなたに拒否権があるとでも?」


 クッソ……あの片岡先生にチクられたら本当に不味い。


 しかもこいつ割と有名だから俺のクラスにファンクラブめいた人間が隠れ潜んでいても不思議じゃないか。だとしたらいよいよ逃げ道が潰えたことになる。


 ──完全に詰んだなこりゃ。


「チッ。わかったよ……やりゃ良いんだろ。けど完全に納得したわけじゃないからな。課題はやるが俺は基本的な考え方を変えるつもりはない」


「あなたは変わらないと社会的に不味いレベルだと思うんだけれど?」


 そのセリフそのままそっくり返したいんだが!?






【──あとがき──】

第9話まで読んで下さり誠に有り難うございます!

ここでこの物語におけるプロローグ部分に当たる一区切りを迎えました。

次回からようやく2人目のメインヒロインが登場しますッ!

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