ボッチは大人の誘惑に抗う
「……はあ。相変わらず捻くれてるわね、アンタは」
かつて親に皆と仲良くしてねと言われていたが、中学生に上がってそのセリフは自分の不満を解消しようとするための欺瞞でしかないと学んだ。
なぜなら子供のためと思って言ってるんだと建前を吐くが本質ではこっちのことを見ちゃいないのだ。
「順調に個性をぐんぐん伸ばしているな、と遠回しに言って頂いてるなら光栄です」
「こっちは褒めた覚えもないんだけど?あまりにも生意気よ。というより大人の話は素直に聞いておくものよ」
誠に残念だが俺は気分次第では
並みの言葉であれば無力化できるのがこの技の魅力なのだ……。
「ふっ。真面目に聞いたとしても、今後の俺の人生に大いに役立てそうにも思えませんね。そもそも皆も自分の頭の中の世界に浸ってるのがその証拠でしょう」
結局は他人が子供のことを見て育ての親である自分を、彼らに白い目で見られないかという下らない心配をしているに過ぎない。
そして子供は意外と本質を見抜く真贋がまだ冴えてたりする時期だからかなりの確率でバレてるものだ。
「そう結論を焦って生き急がないの。荒牧アンタの人生は、まだまだこれから始まったばかりなんだから」
だが世の中には自分が過去に体験した悲しい出来事から自分の人生に制限を設けて、それを代々と何世代にも渡って受け継ぐ悲しい家系も存在するのだ。
そして大抵子供は思春期を迎えるとその呪縛から目を逸らそうと躍起になってしまうものだ。
「……どうだか……」
それがクラスカーストの上位に君臨してお山の大将を気取ったり、クリスマスが近づいたからという理由で恋人ごっこに勤しんだりとやり方は十人十色だ。
だが精神的に熟成している鍛え上げられたボッチのこの俺からすれば、自分の平和を守ることができさえすれば誇りを抱けるのが俺の信念だ。
「まあ片岡先生もそろそろ前の旦那さんと別れてから3年になるんだから、間違っても俺たちが決して先生のような人生を歩まないためにと思……ってガハーっ痛い痛い!?」
悲しきことに俺の無下限呪術は修行が足りなかったようだ。
というよりいきなり距離を詰められたと思うと、鬼の形相で左二の腕の裏当たりの肉を爪が食い込むように摘んで来たぞこの人。
流石に地雷を踏んでしまったか、ともかくメチャクチャ痛いのでやめてくれ頼む!
ていうか暴力反対!
「あんたは今までの人生で人のプライバシーには勝手に土足で踏み込むなと教わって来なかったのかしら?」
いつかの授業の雑談でむしろそっちから自虐ネタの形で明かしてくれたんだから、てっきりネタ扱いしても良いと思ってたんだが少々身勝手だったか。
「いっ……はいごめんなさい調子に乗ってすいませんでした……にひぃっ」
やっと解放されたので痛むところをさすりながら冷静を取り戻す。
あまりの痛みについ変な声が漏れてしまいバツが悪くなって目を逸らしてしまう。
「全く……アタシがアンタの人生の倍くらい生きてきてアンタの作文が的を射ていることは認めるけど、流石に書く場所が見当違いよ」
それを書いた本人が一番自覚してることだし他にも書くことが思いつかなかったので別に良いだろう。
逆に一々こんな生産性のカケラにもならないどうでも良いような細かい事柄を、問題にしたがる人間の気が知れないのは俺の方だ。
「そこまで言うなら書き直しますので……」
ん?気がつけば片岡先生が腕を組みながら利き手の甲を顎に当てて考え事をし始めたので、気になって残りのセリフを自然消滅させた。
しかし、こうして黙ってる姿を見てる分にはやはり美人の大人の女性という印象なのが否めない。
やがて「ふっ」と微笑を浮かべたと思うとこんなことを言い出した。
「アタシについて来なさい」
と言って俺の腕を掴んだと思うといきなり進路指導室の外に出て何処かへと連行されてしまった。
大人の女性に接触させられていることに少しドキッとしつつも質問に答えてくれない。
俺はこれからどこへ何をしに連れ込まれるというんだ。
「…………」
けどこうしてセクシー美女に強引に掴まれてるとグッと来ることも、決してなくは無いですねうん。
ある訳もないのだが大人の綺麗なお姉さんと2人で移動となるとどうしても変な期待は持ってしまうものなんだよな。
「あの……これからどこに行くんですか?」
そろそろ沈黙が恥ずかしくなったので思い切って聞くことにした。
学校で働いてる先生達の中でも相当個性が激しいから、階段を通り様に俺の方にまで届く視線が痛いな。
なんか視線が俺の価値を査定されてるかのような気がしてならなく割と不愉快だ。
「それは着いてみてからのお楽しみね」
なぜあえて明かさないんだこの人は?舐めた作文を書いた罰としてまた別の部屋で指導する訳でも無いだろうな。
だったらなんで今場所移動してるんだよって話になるんだし。
「じゃあ、これから何をするんですか?」
すると片岡先生が少し蠱惑的な笑みを浮かべながら距離を縮めて来ると俺に聞き返してきた。今はもうほぼ部活組以外は帰宅してるので今は廊下で2人きりだ。
「荒牧は……これからナニすると思う?」
おい顔が近いって顔が!あと俺の耳に吐息を吹き掛けるような真似もするなよ脳味噌が揺さぶられる!
──握ってる手から伝わってくる体温。
──そっぽを向いてても思い出してしまうその豊満なボディ。
──それに不意打ちな吐息。
「っ……っは?」
いや落ち着け荒牧ラファエロ。これはまたいつものアレだ。
どうせウブな童貞くんの反応でも見て楽しもうとしているんだこの人は。
……大人の誘惑、恐るべし破壊力だ。
けどそうだな……仮に今からラブホに行くとしたら何しに行くんだろうな。
その目的は観光かな……それではこちらをご覧下さいませ。このボタンを押すと、なんとお風呂が虹色に輝くではないか。凄い、俺は空を飛んでいるぞ。
いやそんな訳あるかい!頭のネジが緩み始めてるのは俺の方だ。
「いや流石にそれは不味いだろ」
ああそうだ冷静を取り戻せ。教師と生徒のそういった関係が白日の下に晒されたら一貫の終わりだろ騙されるな。自分が発見した女の子の定義を思い出せ。
「あれ〜?アタシは普通に聞いただけだというのに荒牧ったら何を勘違いしてたの?」
そう言うと大胆に笑い始めたあたり俺をただからかったんだと丸分かりだな。
やっぱりな、けど大人の女性って本当にズルいよな。こういった駆け引きが周りの同級生とは比べものにならないしあまりにも自然と言いやがった。
「っんぃ……」
このビッチの美魔女がそうやって少年の純情な心までをも弄んでるんじゃねえ!
くっそ……そうやって少しモヤモヤに思いながらついて行ってると、やがて俺たちは第2校舎の3階まで上がると1番奥の教室の目前まで辿り着いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます