ボッチはキャバ嬢せんせーと向き合う
改めて現実とは偽の嘘に塗れたつまらない世界である。
仲間だと思っていた奴らに平気で裏切られて、建前で放たれた小さな親切に飛び掛かると拒絶されるし、その場で誤魔化すために長年も騙されたりもする。
だったら中途半端に仲良くしてから排除するくらいなら最初から嫌いだと言って欲しいし、社交辞令を飛ばして相手を勘違いさせるくらいなら初めから本音を包み隠さずに言ってくれよと思うんだ。
だが彼らはいつだって本音を隠そうとするだろう。
なぜなら彼らに青春するに当たっては常に自分と相手を偽って自分を取り巻く環境を良く映るようにしようとする者もいれば。
向こうから伝えようともしないから理解できないのに『察しろ』と謎にエスパーを押し付けて場をやり過ごさんとするからだ。
やはり古式時代の悪しき伝統は今すぐにでも淘汰されるべきだと声高に主張したい。
そんな彼らにかかれば嘘、騙し、詐欺や噂話さえも、現実を楽しく過ごすための調味料なのだ。
仮に嘘をつくことが現実を楽しく生きるためのエチケットなのだとしたら、一度自分がやりたいことのために集団に溶け込もうと自分を偽った人間も、俗に言う『リア充』の括りに入っていなければおかしいではないか。
しかし奴らは認めないのだろう。全ては自分のちっぽけなアイデンティティを守るために都合が良いのか悪いかでしか判断しないからだ。
故に俺はあの日以来に自分に対して嘘をつくことだけはもうしないと誓った。
長々と思ったことを垂れ流したが、結論を言おう。
──現実を楽しく生きている醜いリア充どもよ、木っ端微塵に爆散しろ。
※
「爆散しろはアンタでしょ。……はあ。んでまた何なの、これは?」
そうため息をつきながら俺が提出した紙に書かれた感想を読んでいたのは、俺のクラスの担任兼ねる英語担当の片岡先生だ。
本名は
「何って読んだ内容の通りですけど?」
黒髪ロングに服の上からも分かる程の物凄くセクシーなスタイルの持ち主で、眉毛のメイクが暗いことが特徴的な先生で生徒達からは『キャバ嬢せんせー』と変な呼び名が流行ってたりもする。
しかも言動も容姿もギャルがそのまま大人になったかのようなそれなのだ。
こうして平気なフリをしながら対峙している訳だがそれはあくまでも演出で。
心の中ではそのふっくらした双丘や、組んでいるその美しい脚やその奥に潜むパンツの想像などの誘惑に負けて視線を向けないように窓の外を見ていた。
「アタシが今日のホームルームまでに完成するように配ったアンケートの質問について説明したはずよね?これのどこが学校生活1年間の総振り返りと言えるの、荒牧?アンタは英語の時間でもこんなことを考えていたというのかしら?」
進路指導室で俺の対面のソファに座りながら大人の芯が通った声を発している。
だが残念ながら俺、
まさか2年生になって最初の授業に呼び出しを喰らうとは露程も思ってなかった。
「高校生になって学んだことを今までの人生観と照らし合わせて感じたことを、そのまま凝縮させた感想なんですからしょうがないでしょう。ああ小テストの余り時間とかを有効活用してるんですから、むしろ偉いと褒めるべきだと思うが」
主に高1を振り返ってみた結果、正直に思ったことをそのまま書き綴った以上仕方ないだろう。
適当に『〜があって楽しかったです。』と書く選択肢があったのは事実だが、それは現実から目を逸らし自分を偽る行為なため書くのは憚られる。
少し前までは教師とタメも交えながら話してる自分に驚いていたのだが、基本生徒の皆にもこうして気楽に話しかけてるのもあるし、外見がギャルそのままで親しみやすい性格をしてるから本人の許可もあっていつの間にかこうなっていた。
「どうしてそう悲観的になるの、何があってこんなことになったのよ。……本当に今まで1つも楽しかった思い出は無かったの?」
楽しい──それに限りなく近い感情を抱いた出来事があったとすれば、文化祭でクラスが展示ものの出し物を選んだ故に、当日に図書室に閉じこもって好き放題にラノベを読み耽られたときくらいだろうか。
「強いて言えば、文化祭の当日にゆっくりできたくらいでしょうか」
あのときは奥でキャーキャーと騒ぐ声をイヤホンで塞いで、その作品のOSTをBGMにまったり読書できたのが唯一学校に通って幸福感を満喫できた瞬間だった。
「記念の集合写真で亡霊のように写っていた記憶があるんだけど?」
斜め上の端っこの方で図体のデカかったクラスメイトの肩からひょっこり顔を出すように意識していたはずだが、一切笑みを浮かんでいなかったから確かに側から見れば心霊写真のように見えてしまうのかも知れない。
「なら良いことでしょう。クラスに貢献した覚えもなければ関わり合った覚えも無いんだから、むしろスッと空気のように消えたようで彼らも喜んでるだろう」
この1年間で暴力行為などを受けたこともなければ、義務連絡以外の用件でクラスの人間と関わった痕跡もほぼ無いから比較的に平和にやり過ごせたものだ。
「どう考えても耳が痛くなるような話よ。荒牧、アンタが群れることが嫌いなことはもう分かったけど、流石に孤独だと辛いものがあるでしょ?」
まあそりゃ今までの人生で周りとワイワイ過ごしながら生きてきた人からすれば、拷問のような縛りプレーのように見えるかも知れないが。
俺は現時点での学校生活で1点だけを除いて特にこれといった困りごとを抱えているわけでも無い。
「確かに1人で居るのは好きだけどだからって無理に他の人たちの輪の中に入る事は無いでしょ。むしろ俺が割り込むことで場の空気がしらけ、順調に動いてる歯車に石を挟んで機能不全に陥らせるような事態になりかねない」
そしてそれは過去の俺が実証済みなのだ。
「荒牧!もう自虐は止して。聞いてるこっちが悲しくなるから」
……ん?なんだ?眉間をぐっと寄せて怒りの感情を表現してる。
そんなにマジな顔になってキレる程のことじゃないと思うが。
俺は今までに体験した客観的な事実に基づいた推測を述べただけだが。
「……そ、そうですか。では話題を変えませんか?」
「本当にもう全くよ……それに荒牧がそうやって自分のことを卑下する度に、あなたのことが好きな人が悲しむんだということを良い加減に覚えなさい。こうして聞いてるアタシも聞くに堪えないからもう勘弁してちょうだい」
自分が受け持っている生徒に人気な先生故のお世辞だろうか。
いや……もしかしたら心当たりがあるかも知れないが前提条件がおかしい。
なぜなら俺は過去に1度も異性に告白されたことが無いからな。
「それは失礼した、謝ります。……けど本当の意味で俺のことが好きな人なんてもの好きな人間は居ませんよ」
仮に俺のことが好きだと思っている人が居たとしたら、恐らくその子は過去のどこかで致命的なバグを授けられたに違いない。
俺が中3で当時の好きな人に告白するまでは家族以外の女性に優しくした覚えなんて何一つ無いからな。
つまり女の子が俺に惚れる道理なんてある訳がないのだ。
恐らく俺を元気付けようと片岡先生が優しくしてくれているんだろうが、真実と嘘の分別くらいはもうとっくの昔から判別できるようになったはずだ。
たかが感想欄とはいえ、リア充へのアンチテーゼを物申すくらいだからな。
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