第9話

「もうこんな時間か……」


 ダンジョンから自分の部屋に帰ってきた熊翔は食事と一緒に酒を飲み、結局酔い潰れてそのまま眠ってしまったのだが、今回は三日後ではなく翌日に目を覚ました。


 ちなみに現在の時間は午前十時二十九分。真っ当な人間だったらとっくに起きて活動している時間なのだが、怠け者の駄目人間である熊翔には関係無い話なのだろう。


「………ん?」


 起きたばかりの寝ぼけ眼でぼんやりと天井を見上げていた熊翔は、自分の中で何か違和感を感じた。「自分のではない自分の体」に異物が入り込んでいるような奇妙な感覚に、彼は何となくだが昨日ダンジョンの中で見ていた光の板を呼び出し、そこにダンジョンの情報を表示させる。



【迷宮】???

【主人】小森熊翔

【秘宝】厄病呪毒若命鏡鎧

【階層】1

【成長】4/10

【脅威】C-

【MG】カラミティーズ(18/18)

【CG】18

【FG】0/2

【設備】光と癒しを否定する闇

【称号】新たに産まれた迷宮

【道具】鎖鉄球付き大剣、装飾過多なビキニアーマー、魔術師の戦槌、魔術師の帽子、丈夫な布のドレス



「……? ……………!?」


 光の板に表示されたダンジョンの情報は一部が昨日と違っていて、それを見ていた熊翔はある一点に気づくと驚愕に表情となって目を見開いた。


「フ……『フレッシュゴーレム』が二体作れる、だと……!?」


 ダンジョンが防衛のために作り出したモンスター、ゴーレムは大きく分けて三種類ある。


 昨日見たカラミティーズのような、そのダンジョンで戦うのに最適な姿とアーティファクトが持つ力を元にした特殊能力を兼ね備えた、ダンジョンマスターの戦力の基本となる「マスターゴーレム」。


 マスターゴーレムが作り出す、本体と比べていくらか能力は劣るがマスターゴーレムと同じ姿と特殊能力を持って、自動でダンジョン内を活動して防衛する「コピーゴーレム」。


 そしてダンジョン内で死んだ侵入者達の死体に新しい生命と能力を与えて作り出す「フレッシュゴーレム」。


 熊翔が今見ているダンジョンのステータスの「フレッシュゴーレム」の欄は、現在活動しているフレッシュゴーレムの数と、それにこれから作れるフレッシュゴーレムの数を合わせた合計数を表している。ステータスの情報によれば熊翔は最大二体のフレッシュゴーレムを作れるとあるが、つまりこれは彼が寝ている間に侵入者がダンジョンに入り込み、その内の二人が死亡していることを意味していた。


「嘘だろ、オイ……? 俺はこの部屋に大人しく引きこもっていて、昨日は酒を飲んで寝ていただけだぜ? それなのに人殺しかよ?」


 異空間にあるダンジョンに侵入するにはゲートを使って転移するしかなく、侵入者はまず間違いなく人間だろう。そして熊翔の命令がなくても、ゴーレムはダンジョンに侵入者が現れれば自動でそれを排除するべく攻撃を行う。


 そのことは理解しているのだが、自分の半身であるダンジョンが侵入者を二人も殺したという事実に、熊翔は何とも言えない嫌な気分となる。しかも彼にはまだ、それよりも優先して考えるべき問題があった。


「……侵入者はまだいるのか?」


 すでに二人の侵入者が死んでいるが、それがダンジョンに入ってきた侵入者の全てとは限らない。熟練したダンジョンマスターなら、自分のダンジョンにどれだけの侵入者が入ってきていて、どの辺りにいるのか感知できるのだが、新米の熊翔にはまだそのような芸当はできなかった。


「……仕方がない。聞くしかないか……」


 もしまだダンジョンに生きている侵入者がいると考えると不安で仕方がないのだが、実際にダンジョンへ行って確認するのは危険すぎる。そのため熊翔は気が進まないが、すでに死んでいる侵入者をフレッシュゴーレムにして、直接情報を聞き出すことにした。


「確か、ここをこうするんだったよな? ……………はぁっ!?」


 熊翔がダンジョンにある二人の侵入者の死体をフレッシュゴーレムにするべく光の板を操作すると、次の瞬間いきなり目の前に裸の女性が二人現れて、熊翔は思わず驚きの声を上げるのだった。

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