第8話
それから熊翔はしばらく光の板を操作して情報を集めながらダンジョンの中を歩き回り、そのお陰で自分のダンジョンのことが大分理解することができた。
ダンジョン内部の構造。現在唯一のダンジョン自体が持つ防衛機能。そしてそれらを利用した熊翔のゴーレム、カラミティーズの戦い方。
「随分と初見殺しのダンジョンだな。いや、これは初見じゃなくても攻略するのは難しそうだな」
自分のダンジョンの戦力を確認した熊翔は、これならばアーティファクトを狙う外敵が来ても、すぐには攻略されないで済むと分かり安堵する。
「まあ、敵なんてこないのが一番いいんだがな。……それにしても、いい加減腹が減ったな」
熊翔はこの三日間ずっと眠り続けていて何も食べておらず、食事をとるために一度ダンジョンアイランドにある自分の部屋に戻ることにして、部屋へと繋がるゲートを作り出した。
「……マジで誰も来ないでくれよ」
アーティファクトを守るためにダンジョンコアと一体化したダンジョンマスターは、アーティファクトを奪われればダンジョンと共に死んでしまう。
だからダンジョンに侵入者が現れれば戦いは避けられないが、最初から侵入者が来なければ戦いは起こらない。
何もせずただのんびりと怠惰に生きたい熊翔は、誰もいないダンジョンの通路を振り返り願うように言うと、ゲートに触れて自分の部屋へ転移した。
⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎
「この奥ですわね?」
「は、はい。そうです」
異世界にある山奥の洞窟の中を、大剣を背負った女性が進み、その後ろに大きな帽子を被った女性がついて行く。
大剣の女性と帽子の女性がしばらく洞窟の中を進むと広い空間に出て、そこには石で造られた門のような建造物があった。
「これがダンジョンのゲートなのですか?」
「ちょっと待ってください」
石の門を見て大剣の女性が言うと、帽子の女性が進み出て石の門を手で触って調べた後、小さく呪文のような言葉を口にした。すると門の表面に魔法陣が現れた。
「おおっ!? でかしましたよ。それでは……」
「ちょっ、ちょっと待ってください」
大剣の女性が歓喜の声を上げて石の門の魔法陣に触れようとすると、それを帽子の女性が慌てて止める。
「いきなり何ですの」
「いえ、その……。本当に行くんですか? このダンジョンは『魔法のダンジョン』なんですよ?」
ダンジョンは大きく二種類に分かれる。
一つは洞窟に廃墟、遺跡にモンスターや犯罪者などが住み着いたダンジョン。
もう一つは遥か昔に、神と悪魔が覇を競う戦いでお互いが敵対する神や悪魔、あるいはそれが使用していた魔法の武具や道具を封印するために創造したダンジョン。
前者のダンジョンは冒険者や傭兵がモンスターや賞金首の犯罪者を狩る狩場となっているのだが、後者のダンジョンは前者と比べ物にならないくらい危険で、人々はこのダンジョンを造られた経緯もあって「魔法のダンジョン」と呼んでいた。
この世界にはここ以外にも魔法のダンジョンの存在が確認されている。そしてこれまでに数多くの冒険者や王国の騎士団が魔法のダンジョンに挑んできたが、攻略できたどころか生還できた者は誰一人もいなかった。
「そんなことは分かっていますわよ。ですがこの先には私達が探し求めてきた秘宝があるのです。ここで引き下がるつもりはありませんわ」
帽子の女性にこのダンジョンが非常に危険だと言われても、大剣の女性は物怖じせず石の門の魔法陣に触れる。すると次の瞬間、大剣の女性はこことは別の場所にあるダンジョンへと転移され、それを見た帽子の女性も魔法陣に触れてダンジョンに転移した。
それから後、大剣の女性と帽子の女性、この世界で二人の姿を見た者は誰一人としていなかった。
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