第2話
ダンジョンアイランドに入る道は、本土の降戸市と繋がっている一本の橋だけである。ダンジョンアイランドの周囲の海には科学技術による包囲網だけでなく、異世界交流で伝わってきた魔術の結界が十重二十重と張り巡らされており、物理的にも魔術的にも侵入が困難だからだ。
そしてその橋の上を今、新たに発見されたダンジョンマスターを送る時のみに使用される特別列車が走っていた。
特別列車は、重装甲と無数の重火器で武装した細長い戦車みたいな車両が三両繋がった外見で、二つ目の車両の中に今回送られているダンジョンマスターの姿があった。
ダンジョンマスターの名前は
男、二十歳。職業フリーター。
百八十二センチという高身長にがっしりとした体つきをした名前通りの熊のような大男で、革のジャケットにジーンズ、サングラスという服装がただでさえ威圧感のある姿を更に恐ろしく見せていた。
大学受験に失敗してからは親元でアルバイトをしながら生活をしていた熊翔は、朝目覚めるとダンジョンコアと一体化していてダンジョンマスターとなっていたことに驚き、最初は自分がまだ夢でも見ているのではないかと思った。
ある日突然ダンジョンマスターとなった者が現れたという話は時折ニュース等で聞くが、まさか自分がそれになるとは夢にも思っていなかった熊翔が呆然としていると、いきなり防弾ベストやらサブマシンガンで武装した数人の屈強な男達が家に突然押しかけてきた。屈強な男達はダンジョン関係の問題を専門に扱う雹庫県警の特殊部隊で、最新鋭の科学と魔術の力で新たなダンジョンマスターの気配を感知した彼らは、熊翔を拉致同然に家から連れ出してこの特別列車に乗せたのだった。
「駅に着きました。小森熊翔さん、降りてください」
熊翔が朝の出来事を思い出していると特別列車がダンジョンアイランド内にある駅に着き、彼をこの列車に乗せた特殊部隊の隊員達の一人が熊翔に降りるように話しかける。
「……」
隊員の言葉に熊翔が無言で従い列車から降りて駅を出ると、今度は巨大な戦車のような凶悪なまでに武装された護送車に乗せられて、十分くらい走った後にダンジョンマスター専用のマンションの一つへ連れて行かれた。
「小森熊翔さん。貴方には今日からここで暮らしてもらいます」
隊員は熊翔をマンションの中にある彼の部屋の前まで案内すると、事務的な口調で話しかける。
「国が貴方達、ダンジョンマスター達に望むのは『大きな問題を起こさずこの島で静かに暮らす』の一点だけです。それさえ守ってくれれば後は何をしようと自由です。普段の生活のための資金は、毎月十万円分の電子マネーがこの携帯端末に振り込まれます。また、それ以外の詳しい規則は携帯端末から調べてください」
「……」
そこまで言うと隊員は熊翔に携帯端末を手渡し、彼はそれを無言で受け取る。
そして隊員達が帰って行ったのを見送ってから熊翔は自分の部屋に入り、ドアの鍵を閉めると……。
「……ッッッシャア!」
と、両腕を天に突き上げ渾身のガッツポーズをとった。
「マジかよ? 俺がダンジョンマスターになれるなんて? まさかまだ夢を見ているんじゃないだろうな?」
ガッツポーズをとった後、テンションを上げて独り言を言う熊翔は、先程までの特殊部隊の隊員達に見せていた無表情とは全く違う、歓喜の表情を浮かべていた。
「この島で静かに暮らしていれば後は自由ってことは、ずっと引きこもっていてもいいんだよな? もうクソ面倒臭いバイトに行かなくてもいいし、親の目を気にして受験勉強とかもしなくてもいいんだよな? それで毎月十万円の生活費? 引きこもってるだけで毎月十万円!? 天国かよ、ここは!?」
感極まった顔となった熊翔は雄叫びを上げる熊のように叫ぶ。
「国からの命令じゃあ、仕方ないよな? 仕方がないからのんびりとした引きこもりライフを送るしかないよな? よし、任せろ! 俺が本気になったらこの部屋から一歩も出ない自信があるぜ!」
人としてかなり駄目な発言を自信満々に言う熊翔。
今日新しくダンジョンマスターとなりダンジョンアイランドにやって来た男、小森熊翔。この男は尋常ではない怠け癖があるどうしようもない駄目人間であった。
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