雹庫DUNGEON ISLAND～ただの引きこもり？　いいえ、ダンジョンマスターです～

小狗丸

　全ての始まりは地球が誕生する遥か昔に、こことは別の宇宙で神域に至る知識と技術を持った一人の魔術師がある魔法の道具を発明したことであった。

　その魔法の道具の名前は「ダンジョンコア」。名前の通り、物語に登場する魔物が生息して奥地に宝物が眠る迷宮「ダンジョン」のコアとなる魔法の道具である。

　ダンジョンコアは対象を自らの中に封印すると、異世界へと転移して異世界の生きる生物と同化。そして封印した対象の力と同化した生物の魂の形を利用して、封印を解こうとする他者を撃退するための防衛機能を持った建造物を、世界と世界の狭間にある異空間に創造する。

　この異空間に創造された建築物がダンジョンであり、ダンジョンコアと同化してダンジョンの防衛機能を司るシステムとされた生物のことは「ダンジョンマスター」と呼ばれた。

　ダンジョンコアはどれほど強大な存在でも異世界に封じられる便利な道具として、発明者である魔術師がいた世界以外でも大量に量産され、人類だけでなく神や悪魔の戦いに使われることとなった。結果、多くの強大な存在が異世界に封印されることになり、そこで一つの事実が明らかになる。

　ダンジョンコアを発明した魔術師が最初からそうなるようにしていたのか、あるいは単なる偶然なのかは分からないが、対象を封印したダンジョンコアは全て、同じ世界の一地方にと転移していたのだ。

　無数のダンジョンコアが転移した場所は地球にある国家の一つ、似本（にほん）国の雹庫（ひょうご）県。

　ある時を境に雹庫県で生まれ育った人間は、千分の一の確率で異世界から転移して来たダンジョンコアと同化してダンジョンマスターとなるようになっていたのである。全てのダンジョンコアが雹庫県に集まりつつあることを知った異世界の住人達は、何らかの形でダンジョンの力を得ようと似本へとやって来て、初めてダンジョンが確認されてから五十年以上経った現在、雹庫県は様々な異世界の人々が訪れる世界で唯一の異世界交流地域となっていた。

　そんな雹庫県の降戸（こうべ）市の南方にある海に、ダンジョンマスターとなった者達を集めた人工島がある。元々その人工島は貿易港と居住地とするために開発されていたのだが、開発と同時期にダンジョンが現れ始めたことから、ダンジョンマスター達を集めて隔離するための場所へと目的を変更して開発され、人々は人工島のことをこう呼んだ。

　数千のダンジョンが集まり、数多の世界の希望と災厄が眠る混沌と狂気の島「ダンジョンアイランド」と。

　ダンジョンコアと一体化してダンジョンマスターとなった者は、すぐにダンジョンアイランドに強制連行されて、これには一切の例外も異論も認められない。ダンジョンマスターが得た力は、本人の意思とは関係無く周囲に危害を与える危険があるため、仕方がないと言えば仕方がないのだが、それでもこれは人権を無視していると考える人も多い。

　そして今日、新たにダンジョンマスターとなりダンジョンアイランドに強制連行された一人の男は……。

「天国かよ、ここは!?」

　と、歓喜の声を上げていた。