驚き、慄き、21世紀2

「あ、皇雅君のお母様でしょうか?何時もお世話になっております。私、こういう者で…」


「ああ!皇雅から話は伺っております!卒業後の進路を御相談頂けてると!本当に有難いお話を頂いてーー」


「卒業後は是非我社にーー」やら「勿体無いお言葉です」やらが飛び交う中で、怜哉が居心地悪そうに身を縮こまらせていた。


「…ちょっと。何でアンタ隠れてんのよ?」


「皇雅の母ちゃん、家のババアのダチなんだよ…つうか、バレると面倒だから話しかけんな」


 母親怖い元ヘッドと笑う事なかれ。怜哉の母親は我が国最大の某自由業の一人娘である。当人はそれが嫌で一般男性と結婚し、縁を切ったが、キレた時の迫力は正しく血は争えないというヤツだった。


「あ、皇雅君のお母さん!私、大和のどかって言います!皇雅君とは仲良くさせて頂いてま〜す♪」


 明俊さんとの話が終わったと見るや否や、はいはいと元気に手を上げるのどかさんに母親が目を輝かせる。


「まあ!可愛らしい娘だわ!皇雅!何で言わなかったの?」


「いや、何でと言われてもだな…」


 現時点では女友達でしかない彼女をどう紹介すれば良いと言うのか…。


「可愛らしいだなんて…えへへ」と照れ笑う彼女の横で「ハハハ…仲良くだなんて、のどか。友達としてだろ?そんな言い方をしたら駄目じゃないか?」と明俊様が死んだ魚の様な目で笑っている。


「のどかちゃんは素直な良い子ねぇ。何も無い所だけど、是非遊びに来て頂戴!」


「いや、母さん。それは辞めた方がーー「わあっ!本当ですか!やった〜♪絶対行きま〜す♪」


 俺が止める間もなく、満面の笑みで了承し、椅子の上でピョコピョコ跳ねる大和のどか。そんな姿を見せられたら俺に止める術はない。社長令嬢、大和のどかのボロアパート来訪が決定した瞬間である。


「…皇雅君?」


「明俊様。そんな顔をされてもですね。俺が止められる訳ないじゃないですか?」


 大体、妹に嫌われたくないからか知らないが、直接言わずに俺に言わせようとするなんて悪い人だ。俺だって嫌われたくない。


「解ってる。解ってはいるんだけど…!」


 悔しげな表情で呻く辺り、明俊様にも止める術はないのだろう。何なら卒業後に俺を会社に迎えることさえ諦めてないようなので尚更だ。

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