尽きることのない悩みの日々5

「そういえば、皇雅君は何位だったの?」


「うん?俺か?俺はこの通りだ」


 別に隠すものでもないので俺は彼女に成績表を渡す。そこにはクラス2位、学年5位の順位が書かれている。


「学年5位…」


「ああ。のどかさんに勉強を教えたのが良かったみたいだ。俺も良い復習になったようだ」


 その時の俺は彼女の事だから、キックボクシングの時のように褒めてくれるだろうと思っていたーーというか、嫌らしい話だが期待していた。


 やはり、気になっている女性に凄いだの素敵だの言われたいのは男の性というものだ。そして、彼女は普段そういう期待を裏切る事はなかった。だから、俺は欲を掻いたのだ。


 それがまさかーー。


「むぅ〜!!」


 私不満ですと言わんばかりに頬をプクッと膨らませ涙目で睨み付けられた瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。


「全然近づけてないじゃん!!なんでそんなに頭良いの!!折角頑張ったのに!!」


「あ、いや、えっ?」


 そもそもだ。今までの人生で頭が良くて妬まれることはあれど、怒られたことはなかった。故に俺は何故怒られているのかさえ、完全に理解不能な状態なのである。


 しかも、涙目で膨れっ面になるほどの怒りなのだ。それなりの怒りであるはずである。もしや、俺は点数が上がらない方が良かったのだろうか…?


「もうっ!期末はもっと良い点数取れるように協力してっ!!私、もっと頑張るからっ!!」


「あ、ああ。それは勿論だ…」


「約束だからねっ!!うぅ〜!!折角ちょっとは近付けたと思ったのにーー」


 彼女はまともに回らない頭の俺をそのままに、プンスコしながら教室を出ていってしまった。


 燦々と輝く西日が照りつけ、更に思考を鈍らせる。そもそも、今の俺の頭の中は彼女が怒ってしまった理由を解き明かす方程式を構築しながら、エラーを起こし続けていた。


「とりあえず、帰るか」


 言葉に出したものの中々立つ気にならなかった。ジムもバイトもテスト期間を理由に休みにしていて正解だったのかもしれない。しかし、彼女が帰った今、教室の中は俺一人である。このまま残っていても仕方がない。


 机の中の物を鞄に突っ込み肩に掛けた俺は足に力を入れたーーが、やはり、立ち上がる気にならかった。無気力感に苛まれる俺は溜め息を吐くと、椅子に凭れかかると共に深く項垂れるのだった。



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