尽きることのない悩みの日々4
中間考査の結果が帰ってきた。普段とあまり変わらない勉強量だと思っていたが、学年5位の好成績だった。
どうやら、のどかさんに勉強を教えていたことが良い復習になったようだ。これで学力については学校のレベルはあれど、最上位になったことになる。
「今回のテスト。内のクラスは中々の平均点だったぞ。期末考査もこのままの調子で頑張って欲しい」
HRの際、担任が嬉しそうに告げるのを右から左で聞きながら、俺は思考を巡らせる。
もう一年以上も前になるが、我が国一の世界的な大企業の社長が終身雇用の限界を説いた。
簡単に言えば、今後は正社員とて安泰とも言えないし、企業側も派遣や契約といった雇用を増やしていくだろう、といったものだ。
ある意味では資本主義らしい話であり、実力がある者は数少ない正社員に辿り着け、そうでない者は派遣や契約雇用のままで、仕事に従事することになる。
それが嫌ならば自身で仕事を起こすしかない。そして、国は起業家やフリーランスが増える事を望んでおり、そんな政策に力を入れ始めた訳だ。
ならば、まず高校を卒業して、お金を貯め、職歴や経験を積み、独立するという方法を選ぶのは、ある意味では理に叶っていると言えた。
そういう意味では俺の考える未来というのは、そう的外れな事ではないと考えている。
そして、大学で学びたい事が出来た時ーー例えば経営学であったり、IT関連であったり、その時に必要なスキルや学歴があれば大学に行くというのが今の俺の考えであった。
唯一の問題点を挙げるとするならば、俺自身やりたい事が解らないことだ。やはり、本当の意味でのやりたい事というのは実際に経験してみなくては解らないものである。
ただ、独立したい。ただ、経営したいでは、その仕事を続けられるとは思えなかった。
多くの経営者というのは広域的に見れば、好きを仕事にしている。
解りやすく、その職業が好きという場合もあれば、抽象的に『体を動かすのが好き』『頭を使うのが好き』という場合もあるが、何らかの形で自身の適性を知っている。
しかし、俺の場合はその何々をするのが好きレベルで好きが解らないのだ。
前ならば歌と答えただろう。しかし、手術後は完全に気持ちが折れてしまった。考え過ぎる頭は痛いし、運動が好きかと言われれば何とも言いようがないしーー。
「皇雅君、皇雅君っ!やったよっ!成績上がったよっ!やった〜!」
放課後、成績表を片手に思考の渦に巻き込まれていた俺の前には、成績表を両手で抱え、全力で飛び跳ねながら喜ぶ大和のどかの姿があった。
自分の成績が上がったことには大した感情も沸かないというのに、こうやって全力で喜んでいる彼女の姿を見ると、心から嬉しく感じてしまうのは何故だろうか?
「それは良かったな。前回のテストから、どのくらい上がったんだ?」
「う〜んとね♪前回から50上がってね!130位台になったんだ〜♪半分より上の順位に入れたんだよ♪えへへ〜♪」
成績表を片手に持ち替えて、ピースをしながらにま〜と笑う彼女を見て、俺も思わず微笑んだ。
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