尽きることのない悩みの日々3
「ただいま」
「おかえり。皇雅」
母の言葉に迎えられ、俺はリビングへと向かう。疲れ切った顔で机に突っ伏すようにしながらも微笑む母を見て、心の内を悟られないように微笑んだ。
「そんなに疲れてるんだったら、またなくても良いから…明日も朝早いんだろう?」
「うふふ、そうね。でも可愛い息子の顔を見ると元気になれるから…寝る前に見とかないと」
家の母は元々体は弱いものの、美人で頭も良く息子の俺から見ても出来た女性だ。息子をからかうのが好きという謎の趣味は頂けないが素晴らしい人だと思う。
ーー何故、あんな父親に捕まってしまったのか?それだけが甚だ疑問だが、母曰く世の恋愛とは総じて、そういうものらしい。
「…別に顔くらい何時でも見れるだろう?もう病気も薬を飲めば大丈夫何だし…あまり、無理はしないでくれよ?」
「解ってるけど…唯でさえ母子家庭なんだから無理しない訳にはいかないでしょう?皇雅は折角頭が良いんだから、出来れば良い大学に行って欲しいし…」
「…母さんには悪いけど大学に行く気はないよ。俺、元々勉強には向いてないし、キックボクシングが駄目そうなら早く働きたいから」
これは俺の本心だった。勉学に対する興味が薄く、学びたい事も無い。なのに高い学費を払ってまで大学に行くというのは家の状況的にあり得なかった。
「皇雅。家の事を思って言ってるのなら考え直して。大学に行った方が良いことくらい皇雅なら解るでしょ?」
「母さん。それは違うよ。俺は本当に早く働いて、お金を貯めたいんだ。それで何れかは独立したいと思っている。だから、早く社会経験を積みたい。大学は行きたくなったら通信で行くなりすればいい。だから、無理をしている訳じゃない」
沢山の本を読み、知識を蓄えれば蓄える程に経験値の重要性を感じさせられる。だから、早く社会に出て経験し、ノウハウを掴みたいというのは本心であった。
「…そう。皇雅は頭が良いから、きっとそういう夢みたいな話も、ある程度、道筋を立てて言ってるのだと思うけど…もし、気持ちが変わったら何時でも言っていいからね。お母さんは皇雅の味方だから…」
そう言う母はやはり、疲れていたのだろう。フラフラと立ち上がると自分の寝室の方へと入っていった。
その姿を見送り、部屋が静かになった頃、俺はリビングの椅子に座り項垂れた。
「夢だなんて…馬鹿な事を…これ以上無理させられる訳ないじゃないか…」
誰にも聞こえないくらいの声で吐き出した。俺に夢なんかありはしない。それは本当だ。なまじ何でも出来るから、やる気も出ない。
しかし、そんな俺が唯一つ願う事があるならば、今まで苦労を掛けた母親を幸せにしたいということ。
それ以上、望むことなんて今の俺にはありはしなかった。
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