尽きることのない悩みの日々2

「私個人としては、単に手数料を巻き上げるだけで何処か自助の努力なのか、と思いますが…。利益を上げる上では非常に良いビジネスモデルだと思いますよ?手数料ビジネス」


「なるほどね。サービスの価値によっては消費者に不満を抱かせかねない。というわけだね。そこのバランスあってこそか…」


 コーヒーに口を着け、思考に耽り始めた明俊様を見ながら俺も思考を開始する。


 現代の社会構造しか知らない人からすれば当たり前のことも、過去の社会構造を知っている人からすれば不満に映ることは沢山ある。


 例えば、自身の資産を預けるビジネス全般において言えることだが、ただ預けたものを引き出すだけで手数料を取られ、預けている資産の運用も大したことがなく、年間で10円も返ってきやしない事を当たり前だと考えている今の人々は不満を抱くことはないだろう。


 しかし、同種のサービスでも年間6%は返ってきた時代を知っている人からすれば、サービスの劣化が著しいと思える訳だ。


 そして、時間帯によっては更に手数料が増えた。別の取引にも手数料が掛かるようになった。それを便利さの代償と捉えるか、企業の努力不足と捉えるか、それは人それぞれとも言える。


「ふむふむ。やっぱり皇雅君の意見は面白いね。それに的を得ている」


「そう言って頂きありがとうございます。とはいえ、あくまでも学の無い高校生の個人的な意見ですから」


「ハハハ。少なくとも私はそうは思わないよ。高校卒業後は是非我が社に来て欲しいなぁ」


 そうやって微笑む明俊様を見て、俺は溜め息を吐いた。


「御冗談を。御社の求人要項を確認しましたが、大卒からの募集と書いてありました。私は高校卒業後に直ぐ働かなくてはならないので難しいかと」


「それは前に聞いたから解ってるよ。その上でね。俺が父を説得すれば良い話だから。考えて欲しいな」


 以前、名刺を貰ったことがあり、調べたことがあるから解るが、明俊様の働く会社は地方規模では中々大きい会社な上に今後の成長が期待出来る会社でもあった。


 本当に就職出来るならば是非ともお願いしたいところだが、あんまりにも現実味がなさすぎて鵜呑みに出来ないというのが本心である。


 …まあ、問題はそれだけじゃないのだが。


「解りました。卒業前までには答えを出します」


「一年半後かぁ…期待しとくよ」


 そう言うと明俊様は会計を済ませて帰っていった。本日、最後のお客様だったので、俺は時間を確認してから閉店準備を始める。


「それにしても皇雅君。僕は良い話だと思うけどね。何で何時もお茶を濁すんだい?」


 閉店作業の清掃中。マスターが本当に疑問だと言わんばかりの表情で尋ねてくる。マスターは履歴書から俺が通っている高校も知っている為、目の前に転がる大チャンスを不意にするような行動に見えているのかもしれない。


「いえ。とても良い話だと思ってますよ。ただ、余りにも現実味がないですし…それにですね」


 俺は以前貰った名刺を取り出し、頭を掻いた。


「あくまでも可能性ですが…。もし、マスターに妹が居たとして、その妹と曖昧な関係の男が喫茶店の面接を受けに来たらどう思います?」



 大掃総業 課長 大和明俊。



 俺と同い年の妹が居るそうで、とても大事にしているそうだ。


 普段、俺の悩み相談も聞いてくれているマスターは状況を察したらしく、何とも言えない表情で微笑みながらーー。


「ああ、例の彼女の…現実は小説より奇なり、だね。しかしまあ、最悪、家で働けば良いから考え過ぎない方が良いと思うよ?」


「…そう言って頂きありがとうございます。とりあえず、当人に兄が居ないか聞いてみてから考えようと思います」


 そう言いながら既に三ヶ月が経過ーー。何故だか切り出す勇気が中々湧いてこない俺であった。

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