時々突然の皇雅君に撃たれるでしょう
パパが玄関から入っていくのを見計らって、私とママは裏庭からリビングへと戻った。
「あらあら。あんなに好かれてるなんて幸せねぇ。若いって良いわねぇ」
顔を真っ赤にしてモジモジしている私を見て、ママが楽しそうに微笑んだ。パパが戻って来なくて心配になった私は、ママと一緒にこっそり裏庭から様子を見に行った。
そしたら、秋月君の口から、可愛いとか、愛らしいとか、チャーミングとか、学園の姫とかーーもう聞いてて恥ずかしくなる位の褒め言葉がいっぱい出てきて、胸がドキドキしちゃった。
「全く。何と言ったらいいのか…。のどか。異性に軽々しく抱き着いては駄目だろう?」
何故か疲れた表情で帰ってきたパパにそう言われて、別に軽々しい気持ちで抱き着いた訳じゃないんだけど、と思ったが、皇雅君が私にとってどんな人なのかをパパに話したことはなかったのでーー。
「パパ、ごめんなさい。でもね、私、誰にでもああいうことする訳じゃないの。皇雅君は特別だから…」
「…それはそれで思う所があるが。もしかして、明美(あけみ)さんは知っていたのかい?」
何とも言えない表情のパパがママを見れば、ママはクスリっと笑った。
「貴俊(たかとし)さんには申し訳無いけど、話は聞いてたの。会ったのは今日が初めてだったけど」
「…私だけ仲間外れだったのか」
がくりと肩を落とすパパを見て、ママは「いえいえ。女性陣だけの秘密だから男性陣はみんな知らないわ」と微笑んだ。
「そうだろうな。のどかにそういう相手が居ると知ったら、あの子達は煩いだろうからな…」
あの子達とはお兄ちゃん達の事だろう。家のお兄ちゃん達は私の事になると、とても心配性だ。もう高校生だから大丈夫だって言っても、ちっとも聞いてくれないのだ。
「まあいいさ。別に悪い青年でもないようだし、私がどうこう言う問題でもない。ただ、年齢にあった健全な付き合いをしてくれれば、それでいいよ」
「あら?意外。家ののどかは誰にもやらん!みたいに言うと思っていたわ」
冷蔵庫から自分用の赤ワインを取って来たママは、パパ用に用意したおつまみ用のチーズ盛りから一つ取ってパクリ。
「全く君は…明美さんの分もあるだろう?」
「フフッ♪だって、このモッツァレラ、とっても美味しいんだもの♪」
悪戯っ子のような笑みを浮かべるママを見て、パパは呆れたような表情を浮かべた。でも、その目はとっても優しくて心地良い。
「…話してみて悪い子ではなかったからね。変な言い訳もしなかったし、とりあえず、様子を見ようと思った。そういう感じかな?」
「あらあら、そうだったの。良かったわね?のどか」
ママの表情がどことなくからかってるようで、でも、目はパパみたいに優しくてーー。私はなんだか凄く恥ずかしくなった。
顔を真っ赤にした私が小さく頷けば、パパとママは顔を見合わせて微笑んだ。
「フフ。じゃあ、話はここまでにしましょう!今日の晩御飯はビーフストロガノフよ♪ソムリエさん、私の赤ワインをお願いね♪」
「全く君は…本当に困った人だな」
口ではそう言っているけど、パパはママが持って来た赤ワインを微笑みながらグラスに注いでいる。ちょっと我儘なママと世話好きなパパは、何時も優しい雰囲気に包まれていた。
「お好みでパンと一緒に召し上がれ♪みんなで乾杯しましょう」
「ああ。乾杯」
私はリンゴジュースを入れたグラスを二人のグラスに当てた。
チリンと鳴ったグラスの音が何だかとても優しくて、私は小さく微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます