放課後のどかさん注意報8

 遂にはぐすんぐすんと鼻を啜り「…帰りたくなくないよ〜」と弱々しい声を出す彼女を見ていると、何だか庇護欲を掻き立てられる。


「正直、遅くなれば遅くなる程怒られる確率が増えるだけだと思うぞ?初めてなら、そこまで怒られないはずだから、な?」


「うう…そうなんだけどぉ…」


 彼女も解っている筈だが、一歩が出ないのだろう。正しく二の足を踏んでしまっている。ならば、こちらとしては、どうにかして背中を押してあげなくてはならない。


「なんだったら、一緒に行くのはどうだ?元々送るつもりではあったが、遅くなった原因は俺にもある。一緒に謝れば反応も違うんじゃないか?」


「…ホント?」


「ああ。このまま、こうしておく訳にもいかないしな。いくら放任とはいえ、あんまり遅くなれば家の母親も心配する」


「…わかった。じゃあ、一緒に帰る」


 そして、彼女はようやく重い腰を上げた。我ながら中々良いアシストだと思った。確かに怒られるかも知れないが、友達まで一緒に謝っているのだから、きっと上手く纏まるだろうーー。










「それで、君は家の娘の何なんだ?」


 …予想外にも別の問題が発生した。


 いや、半分は予想通りだった。元々、のどかさんのご両親もそこまで怒る気はなかったようで「心配したんだぞ?」に「パパ、ママごめんなさい…」をして済んだ話だった。


 ところがである。何を思ったのか大和のどか。ついでくらいに謝っていた俺の方へと小走りで近づくや否やーー。


「皇雅君のお陰で謝れたっ!ありがとうっ!」


 と抱き着いてきたのだ。


 咄嗟のことで動揺すると同時にある意味では冷静だった俺は、何故だかそれを普通に抱き止めてしまいーー。


「それは良かった」


 からの頭ポンポンである。からのスリスリである。のどかさんが。


「あらあら。まあまあ」


 何だか嬉し気なお母様の声にハッと振り向けば、のほほんとした表情の彼女の隣には、普段の俺くらい眉間に皺を寄せたお父様の姿があった。


 そんなお父様に気付いていないのか、彼女はするりと俺の腕から出て行くとお母様の方へと走っていきーー。


「またね〜♪皇雅君〜♪」


「貴方が秋月君ね!娘がお世話になってます。今度は是非家に遊びに来て下さいね!」


 あくまでも友好的な態度を見せていたお母様と一緒に、家の中へと消えていった。


「…秋月君といったね?まず、娘を送ってきてくれた事には感謝しよう。遅くまで連れ回したことに関しては思うところもあるが、その責任はちゃんと取った訳だからな」


 淡々と語るお父様は非常に理性的な方なのだと思った。しかし、その理性的な方が、眉間に皺を寄せるくらいの出来事が行われたという事実ーー即ち、抱き止め、ポンポン、スリスリ事件だ。

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