放課後のどかさん注意報2

 がしゃ〜ん、と少年漫画のロボット合体シーンの様な擬音を口遊みながら、彼女は俺の席と自分の席をくっつけると再度、何時もの、にま〜とした笑顔を見せた。



 何だこれ。可愛すぎるな。



「それでね、ここの問題がね。そのままじゃ公式が使えなくてねーー」


 勉強モードに入った彼女は応用問題を指差し、此方を見上げてくるのだが、如何せん距離が近過ぎる。


 というかだ。俺が背伸びを挟んだせいもあるが、もう左胸のスペースに入り込んでいると言っても過言ではない。


「そうだな。それは応用問題だから、公式を使うだけでは解けないようになっていてなーー」


「え〜?!何それっ!引っ掛け問題じゃんっ!先生性格悪〜!ぶ〜ぶ〜!」


「…ふむ。確かに、今日の授業で教えた公式の応用問題を解かせるのは、性格が悪いかも知れないな」


「でしょでしょ!秋月君もそう思うよね!流石、秋月君!話解る〜♪」


 本当は応用問題を解かせる事で、自分で調べる癖をつけさせたり、思考能力を高める為に課題に選んだのだろう。


 しかし、俺にとっては、そんな先生の意図なんかより、彼女の好感度の方が遥かに大事なので、先生には悪者になってもらうことにした。



(俺の素晴らしい青春の為だ。悪いな先生)



 妄想の中で「俺は生徒の為を思って…」と涙を流す数学教師を下衆顔で眺めながら、俺は応用問題の解き方を説明する。


 やはり、というか、彼女は勉学に対して真摯に向き合っていた。必死に解き方を学び、答えを聞くようなこともしない。極力、自分の力で今日の課題を終わらせようと努めている。


 人より時間は掛かるかも知れないが、諦めない。解らない所だって極力聞かないで調べ上げ、それでもお手上げな場合になって初めて聞いてくるのだ。


 そうやって懸命に努力を重ねる姿は非常に美しく、輝かしい。だからこそ、結果が伴わなくても誰も彼女を責めやしないのだろう。



 少なくとも俺は彼女を責める言葉を知らなかった。



「やった〜!解けた〜!ありがとう♪秋月君♪」


「いや、俺が教えたのは本当に微々たるものだ。基本は出来ていたからな」


 取り掛かっていた応用問題を終わらせた彼女は背伸びをする。そして、背もたれに凭れ掛かるつもりだったのだろう。彼女は上半身を倒しーー。



 すっぽりと俺の左胸辺りに納まった。



「あっ…」


 小さく声を挙げて此方を驚いた様な顔で見上げた大和のどか。しかし、何故だが離れることはしないのだ。


「…えへへ」


 はにかんで顔を赤くするも距離は一向に変わらない。無防備にも密着する彼女の体温の高さに、俺の胸は机を揺らす程、強く鳴り響いていた。

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