秋月君がどれだけあっても足りません

 私は家に帰って直ぐにアプリを開いてメッセージを送った。靴を片手で脱ぎながらメッセージを送って、反対の靴を脱ぎながら返ってきたメッセージを見てーー。


 ずっとスマホを離さないものだから、ママに怒られた。でも、気になる人からのメッセージであることを伝えたら、それなら仕方ないけど、程々にしなさいと微笑まれた。


 秋月君の事はママには言っていた。勉強も運動も出来て、声が良くて、同い年なのに大人びた人だと。それに優しいし、からかっても怒らない。



 そして、私をみんなと同じように扱ってくれる人だって、そんな特別な人なんだって伝えたんだ。



 それを聞いたママは本当に嬉しいそうな顔になって、応援するって言ってくれた。


 私の周りは家族以外、みんな、私を特別扱いしていた。友達、同級生、先生…みんなが私を必要以上に助けてくれている。それは優しさだし、私を思ってしてくれてるのは解ってる。


 でも、それと同じくらい、私をそういう対応が必要な子だと思っていると感じていた。


 私は昔から一生懸命頑張っても、みんなより出来ないことの方が多かった。みんなが直ぐに出来ることを何時間も掛けて、ようやく出来るようになるのが当たり前だった。


 だから、皆、優しくしてくれて、それを認めてくれる、幸せな世界が出来上がったんだ。


 だけど、それって平等じゃない。私は良くて私以外だと駄目だって、でも、それは仕方ないって皆思ってくれる、そんなのおかしい。


 ーー絶対に、おかしいのに誰もおかしいとは思ってないのは、みんなが私をそうしないといけない子供のように考えてるからだって気付いた。


 私は確かにみんなと比べたら沢山頑張らないといけない子だけど、特別扱いされないと生きていけない子ではない。


 一生懸命頑張れば、ちゃんと出来るのにそれじゃあ駄目なの?って、時々考えちゃう。だけどーー。


 ピロンッ。


 メッセージが届いた音がしてスマホを見る。秋月皇雅って名前が見えて直ぐに画面をタップした。


 私に会えて嬉しかったって、また、一緒に遊びたいってメッセージが届いて胸が温かくなった。勉強だって、私が困ってるなら手伝うって、秋月君は何時もそういう風に言ってくれる。


 私の周りにいる歳が近い人の中で、秋月君は一番大人だ。もしかしたら、大学生のお兄ちゃんより大人かもって思う時がある。それに全部のことが普通よりも上手に出来る。


 でも、なんて言うのかな?秋月君は私から見たら、とても凄い能力と私が一生懸命頑張る事を同じくらい凄いことのようにーーもしかしたら、一生懸命頑張る事の方が凄いように考えてる。


 勉強が出来るよりも一生懸命頑張れること。


 運動が出来るよりも素直なこと。


 才能が有るよりも人に優しく出来ること。


 お父さんが教えてくれたことが、私が羨ましく思うことよりも凄いことなんだって、そんな風に思ってくれている。


 だから、秋月君は私を子供みたいに扱わない。それが私は嬉しくてーー。


 ピロンッ。


 そして、また秋月君からメッセージが届いた。


 私が何時もありがとうって送ったことに、秋月君は、こちらこそ何時もありがとうって、私のお陰で毎日楽しいって書いてくれてーー。


「こんな風に書かれたら…皇雅君…」


 恥ずかしくなって言えなかったけど、次は名前で呼べたら良いな、と私は思った。


 だって秋月君とはもっともっと仲良くなりたいから。そして、何時か、きっとーー。


 それからも私達はメッセージを送りあった。少し夜更ししちゃったけど、何時も以上に良い気持ちで眠る事が出来たーーそんな夜だった。


 

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