大和さんの使用は用法用量を守って…5

 俺は会計を済ませてコンビニを出た。


 手にはコーヒーとあの時貰った物と同じシュークリーム。200円程度の品物ながら幸福感は計り知れない。


 確かに人は飽きる。幸せも何れは日常になり、心が動かなくなって忘れてしまう。だが、過去に幸せだった記憶が失われた訳ではない。


 時に、その思い出が自身を苦しめる事もあるだろう。だが、こうして、寂しさを覚えてしまった時、小さなきっかけで思い出せる幸せが有れば、人はまたその時と同じ気持ちで寂しさを塗り潰すことが出来ると思うのだ。


 シュークリームを噛り、コーヒーを飲む。濃厚な甘さの後に感じる仄かな苦味。非常に良い組み合わせだと思う。


 あの時の幸せを噛み締めながら、家路を辿る。その頃にはもう寂しい気持ちは何処かへと消えてしまっていた。


 ピロンーー。


 もう少しで自宅である、区分だけがマンションのボロアパートが見えて来るだろう頃、スマホが鳴った。


 のどか、と表示されたメッセージに画面を開けば、家に無事着いたことを知らせる内容と、今日は本当に楽しかったことを彼女らしい言葉で綴るメッセージが届いていた。


 それもまた、俺の胸に仄かな温かさを宿らせる。何故こうもタイミングが良いのかーー少なくとも今日一日は幸せな気持ちで眠る事が出来るだろう。


 彼女と同じように、俺も素直に楽しめたこと、彼女が来るとは思っていなくて驚いたこと、そんな内容を送れば、数分経たずに返信が届く。


 繰り返し、繰り返し、メッセージを返し続け、家に着いても連絡を取り続けた。カラオケの内容から中間考査の勉強の話になって、また遊ぶ約束もした。


 気付けば、普段寝てる時間よりも遅くまで起きていた事に驚き、メッセージのやり取りを終える。


「明日、また学校で…か」


 そのメッセージを見るだけで、明日の学校が特別な行事のように思えて微笑んだ。


 彼女は一体どう思っているのだろうか?願わくば今の自分と同じ様に、明日を楽しみにしてくれれば嬉しい。


 布団に入り目を閉じる。多くの幸せに包まれ、思考は穏やかに流れた。そして、そのまま意識は夢の中へと落ちていった。


 思い悩み、痛みが出ても尚、回り続ける思考。それが当たり前な俺にしては珍しく、頭痛を感じることなく終えた一日となった。

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