頭痛9割、友人1割、大和さんプライスレス5

「到着〜♪割引券も持ってるよ〜♪」


「まあ、確かに、ここなら恰好は関係無いか。個室だしね」


 大和さんに誘導されるままに連れて来られた場所、それは奇しくもカラオケだった。


「でしょ〜♪それに私、ずっと思ってたんだ〜♪秋月君ってめっちゃ良い声だって♪」


 期待に輝く瞳が向けられ、名誉挽回のチャンスだと胸に刻む。というか、大和さんに良い声だと言われただけで手術をして良かったと思えるのだから、彼女はきっと天使か女神であるに違いない。


「秋月、アンタ今絶対キモい事考えてるでしょ?」


 妙に鋭い金髪ギャルの言葉は聞こえなかった事にした。


「ほほう。姫さん、中々良い所に目ぇつけたじゃねぇか。実際、皇雅は滅茶苦茶歌うめぇからなぁ」


 "姫"と言うのは大和さんの通り名のようなものだ。キュートな見た目に天真爛漫な人柄もあって、誰が呼んだか"坂上の姫"と呼ばれている。


 歴史的小説が元なのか、はたまた世界的スタジオのアニメ映画が元なのかは知らないが、中々のセンスを感じる。


 人によっては恥ずかしく感じるだろうが、当人が「天真爛漫の意味は解んないけど…姫って褒め言葉っぽいから嬉しい♪」と言っていた事もあり、半ば公認の通り名となっていた。


「やっぱり!良い声してるから絶対そうだと思ってたんだ〜♪」


「…いや、別にそれ程でもないぞ。人とはあんまり行かないしな。早朝割とか学割で歌ったり、アプリで歌ったり、まあ、そんな感じだ」


 明らかに期待値が高まっている彼女の様子に「…ハードル上げんな」と怜哉を小突けば「うんや、逆にこのくらい言っとかねぇと、やべぇ」と苦笑いを浮かべた。


「はっ?アンタ、カラオケ一人で行くの?」


「本気で歌手になりたかった時期があったんだ。今は趣味になったが、練習感覚というのもあってな」


 彼女は信じられない物を見た様な表情を浮かべたが、とりあえずは納得した様子で頷いた。


「まあ、人それぞれか。カラオケは遊びって感覚だったから、私にはちょっと解んないけど」


 そんな会話をしながら受付を済ませ、ドリンクを注いで部屋へと向かう。


「…朝からカラオケ良いこと聞いた…」


 何やら呟いた大和さんに「どうかしたのか?」と顔を向ければ「どんな歌歌うか楽しみにしてるね♪」とのほほんとした顔で、にぱ〜とした笑顔を向けられた。



(なるほど、癒しの女神はここに居たのか)



 その瞬間、俺はまた一つ、世界の謎を解き明かすに到ったのだった。

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