幸せ100%+秋月君100%

「上手いって話だし、秋月から歌いなよ?採点入れるからガチでさ」


 煽るような感じの茉凛に、秋月君は確認するような言い方でーー。


「一応言っとくが高い声は出ないぞ?喉を手術しているからな。基本、女性曲をオク下で歌う感じになるが、それでも良いならーー」


「何でも良いし、高い点数出ればさ。友達に歌が上手い子が居るんだけどさ。どんなに頑張っても92点半ばくらいだったから、本当にそれ以上の点数出るのか、気になってんの。TVとかでは出るじゃん?まあ、正直やらせ疑うレベルていうかーー」


 難しい事で有名な正確採点Xを入れながら茉凛が言えば、日野君は「そんなんでやらせ疑ってんじゃねぇよ」と笑った。


 因みに茉凛が言う歌が上手い友達というのは、実は私のことだ。茉凛と二人でカラオケに行って得意な歌を交互に歌い、何点まで出せるか試したことがあったのだ。


 茉凛も平均90点は出せるくらいに上手だし、私からすれば、あんまり差はないかなと思っているけど、彼女からすれば大きな差があるらしかった。


 だからこそ、それ以上の点数が出るのか、なんて言うのだけど、秋月君は少し考えるような素振りを見せた後ーー。


「それで良いなら歌ってみるか」


「お、ガチなヤツじゃん!」


「同席者がそれを御所望だからな。…本気で点数狙うから立って歌うぞ」


 マイクのエコーや音量を調整したり、立ち上がって肩を回したり、全身を解したり…何だか何時もと違う様子にこっちが緊張してきた。


 そして、秋月君が入れたのは、ちょっと昔の歌姫が歌っていた悲しい別れを思わせるバラードだった。元々は高い声を震わせるように歌うことで、そんな雰囲気を感じさせる曲だけどーー。



「ーー」



 秋月君が歌い始めた瞬間、それは、まるで最初から彼の歌だったかのように紡がれた。



 日野君はそうなることが解っていたのだろう。驚きながらも当然といった表情でコーラを飲んでいる。


 その隣で茉凛は目を大きくしながら口を閉じていて、私はーー。



「すごい。それに本当、良い声…」



 秋月君の歌声に思わず、うっとりしてしまうくらいに入り込んでいた。


 曲の音が静かな部分の震える声とか、もう本当に泣きそうな人みたいでウルッときちゃって、最後のサビが終わって、歌が終わった時なんか採点が始まるまで、みんな無言…これが国語の授業で習った余韻ってやつだと、私は染み染み思うのだった。


「what!?95.7点!?OMG!!ヤバすぎでしょ!!」


 点数が表示された瞬間、茉凛が叫んだ。普段はママさん似だけど、興奮して英語が混じってる時の茉凛はパパさん似なんだよね。


「こりゃあ、すげぇ点数叩き出したな。つうか前より上手くなってね?」


「まあな。というか、正直、俺自身が驚いてる。点数を出せるとはいえ、95点いくか、いかないか位だと思っていたからな。最高記録更新だ」


 流石に驚いたと瞳を大きくする日野君に、秋月君が苦笑する。最高記録更新って言葉には驚いたけど、そもそも95点なら普通に出せるって感じが、私には信じられなかった。


 というより、ここまで凄かったら、もう点数なんかどうでも良かった。私はそれ以上に感動する気持ちが溢れて、もう、何かもう、胸がいっぱいいっぱいになっていたのだ。



 だからーー。

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