頭痛9割、友人1割、大和さんプライスレス3

 しかし、そうなるとダラダラ恋愛観について考えている場合ではなかった。


 正直、怜哉の女友達からの紹介については…申し訳ないが、あまり興味は無かった。現状で彼女以上に萌えや癒やしを提供してくれる存在はそう居ないだろう。


 だが、初対面がこの恰好というのは常識的にどうなのか?紹介してくれた怜哉の面子は?


 いや、確かにこんなサプライズをかました怜哉の面子なんて、へったくれもあったもんじゃないがーー。


 複雑な心境のせいもあって、余計に頭が痛くなり、険しい顔になっていたのだろう。怜哉はヘラヘラとした表情を浮かべると、俺の眉間の辺りを軽く小突いてくる。


「気にすんなって!つうか、サプライズかましたつったら、俺が女友達にキレられそうな雰囲気なってるし。アンタ、マジ馬鹿じゃないの?ってメッセ飛んできたわ」


「その状況でヘラヘラと笑っていられるお前の感性には、ある意味感心するぞ」


 ともあれ、今更どうこう言っても仕方がない。怜哉が勝手にサプライズをして、巻き込まれ、勝手に自爆した。今日は当たり障りの無い会話をして帰ることにしようーー。



「秋月って、本当馬鹿怜哉の友達だったわけねぇ。…今日は被害者だったみたいだけど」



 俺が今日の対応を決めた辺りで、長身美人の金髪ギャルが現れ、呆れた様子で嘆息した。


 何故、俺の名前を知っているのかと疑問に思ったが、見覚えがある顔に記憶を辿らせれば、同じ学校の同級生であることを思い出した。


 茉凛=J=ジョンソン。


 派手な髪色と碧眼、そして、非常に美しい顔立ちをしていることもあって、坂上高等学校では割と有名な女生徒だ。同級とはいえ隣のクラスなので接点はないが、確か父親がアメリカ人だと聞いたことがある。


「ああ?馬鹿とはなんだ、馬鹿とは?端っから会わせるつったら断られるかも知んねぇと思って気ぃ使ったていうのによ?寧ろ、感謝するところだろ?」


「他に何か方法あったでしょ?こんな寝起きで来ましたみたいな格好じゃあさ。もし万が一話が盛り上がったって何処にも行けないじゃん。だから、アンタは馬鹿なんだって」


「何だと?」


「何よ?」


 私服の関係で大人びて見えたが、会うなり喧嘩し始めた表情はとても同い年らしかった。それと同時に二人の距離間は、とても特別な物だと感じた。何なら怜哉が言っていた本命だった元カノとは、もしかしたら、彼女のことだったのかもしれない。



「やっほ〜!秋月君〜!」



 そんな事を考えていた俺は、彼女の後ろに隠れていたのだろう。ニヤニヤとした表情を浮かべ、ひょっこりと顔を出した女性の姿を見てーー。



 頭が真っ白になった。



「マジ寝起きじゃん!ウケる〜!お寝坊さん♪」


 外が余程熱かったのか、お洒落に着飾った薄手のブラウスを開けさせ、良いもの見せて貰ったと言わんばかりの表情でにま〜と笑う少女ーー。


 それは大和のどかであった。


 完全に思考が停止し「なっ」とか「あっ」としか発せない俺の真正面に座るなり「アイスコーヒー、も〜らいっと!」と了承も取らずに飲み始める。


 赤らんだ頬、高めの栗色のポニーテールから覗く透き通ったうなじ、汗ばみ透けるブラウスから除く胸元、そして谷間が妙に艶かしい。


「ブラックにが〜い…でも、ありがとね~!てか、今日、本当暑いよね〜」


 そんな俺の視線を知ってか知らずか、ペロリと舌を出した彼女は、乗り出すようにしながらアイスコーヒーのグラスを返してくる。


 僅かに覗く下着と彼女の動きに合わせて、何度も弾むーー。


「わ、悪い。大和さん。俺、ちょっとトイレに行ってくる」


 俺が顔の下半分を押さえながら立ち上がれば、喧嘩をしていた二人も此方を振り返った。


「おっけ〜♪じゃあさ!帰りにさ!ドリンクバーの所にあるソフトクリーム作って来てよ〜♪」


「わ、わかった」


 俺は若干押し退けるような形になってしまった怜哉に平謝りしながら、トイレへと走った。



 何故、大和さんが来たのか?


 何故、あんな恰好なのか?


 何故、あんな大胆な行動に出たのか?



 混乱し、エラーばかり起こす頭の中で、俺はこう思うのだった。



 大和さん…眼福です。



 再度、溢れ出した赤の喜びを感じながら、俺はトイレの個室へと駆け込んだ。



 因みに、高IQの人間は恋愛に関する積極性については乏しい傾向にあるが、その反面、何故か性欲について強い傾向にあるとだけ言っておこう。



 …。

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