幸せに満ちた私の世界

 私、大和のどかはとっても幸せだ。


 パパは清掃会社の社長で、ママは元モデルのファッションデザイナーだ。


 兄弟はお兄ちゃんが二人居て、上のお兄ちゃんは大学卒業後、パパの会社で働いている。下のお兄ちゃんは県内一の高校から首都の凄い国立大学に入った。


 みんな、私の自慢の家族だ。


 私はといえば親戚曰くミソッカス?らしいけど、それを聞いたパパは家が壊れちゃうんじゃないかってくらい怒って、自慢の娘だって抱きしめてくれたんだ。


 私は小さい頃から体も大きくないし、頭も良くない。凄いパパとママ、お兄ちゃん達と比べて、全然凄くないことは解ってたけど、パパはそんな事は無いって言って何時もこんな話をしてくれた。


「のどか。この世界で大切なことは頭が良いとか、能力が高いとか、そういうことじゃないんだ。人に優しく、素直で、何事にも一生懸命頑張れることーーそれ以上に大切なことはないんだよ」


 何回も聞かされて、耳にタコが出来ちゃうって思ったけど、その通りにしてたら、困った時には回りが助けてくれたし、みんな友達になってくれたし、本当にその通りなんだなって思った。


 それにパパが居ない時にママが悪戯っ子みたいな顔で「パパには内緒だけど」って、コソコソ話をするように顔を寄せてーー。


「パパは素直になさいって言うけどね。女の子は誰にでも素直じゃ駄目なのよ。特にのどかは可愛いから、自分を守る為の嘘を覚えないといけないわ。素直になるのは大切な人達の前だけにしましょうね」


 って、ちょっぴり大人な話を教えてくれて、それも本当だなって思った。


 だって、小さい頃、砂場で遊んでる時に、知らないおじさんから「今一人?」って聞かれたから「一人!」って答えたら、何処かに連れて行かれそうになったんだもの。


 近くに偶々近似のお兄さんが居て、警察を呼んでくれたから助かったけど、誰にでも素直じゃ駄目なんだって、凄く解った出来事だった。


 そして、私はパパとママの言う事を守りながら中学生になって、一生懸命勉強して、ママが作った可愛い制服が着れる坂上高等学校に入学した。


 パパもママも上のお兄ちゃんもいっぱい褒めてくれた。下のお兄ちゃんは「のどかでも入れる高校があって良かったな」って、鼻で笑ってたけど、入学祝いに高いボールペンをプレゼントしてくれた。


「お兄ぃ!ツンデレじゃん!ウケるっ!」


「う、うるせぇよ!馬鹿のどか!」


 そんな、やり取りをして、家族みんなで笑いあった思い出は、きっと大人になっても忘れないだろうなって思った。


 高校に入ってからは勉強とか宿題とか、本当に大変だけど、一生懸命頑張ってることは先生達も認めてくれてるし、仲良しな友達もいっぱい出来たし、本当に最高だ。


 それにーー。


「秋月君、秋月君」


「うん?大和さん?何か用か?」


 耳をくすぐる様な低い声ーー。眉間に寄ってた皺が消えて、キョトンとする顔が何だか可愛い。濃ゆい茶色の瞳を見詰めていると胸がドキドキしてちょっと苦しい。だけど同時に、とても良い気持ちになる。


 隣の席に座る秋月君は私にとって、そんな存在なのだ。


「えへへ♪ただ呼んでみただけだよ♪」


 いつも通りのちょっとした意地悪。でも、同い年なのに大人な秋月君はちっとも怒らない。それが楽しくて、ついつい悪戯してしまう。


 黒板に視線を戻した振りをしながら秋月君の様子をこっそり見ていると、嬉しそうな顔で微笑んで、その顔を見た私はまたドキドキしてーー。


 私、大和のどかは本当に幸せだ。


 こんな日常が続いていけば良いなって、そんな事を考えてしまう程、私の周りは沢山の幸せで溢れている。

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