邪神を復活させようとしている悪い神官がいたので、やめないかと交渉してみた

コータ

やめろ! 邪神を復活させるなどと……ってあれ?

 ふむ。予想していたよりも早かったな。


 まずは褒めてやるぞ、勇者どもよ。なにしろたった三人で過酷な雪山を超えて、我が神殿にたどり着いたのだから。普通なら遭難しておるところだ。


 ふん! しかしながら残念よのう。もはや誰にも止められぬ。邪神復活はもうすぐそこじゃ。そしてワシと部下の神官達の前には結界が貼られておる。この場に近寄ることすらできまい!


 なに? 邪神の復活などやめてほしいだと?


 クハハ! 何を寝ぼけたことを抜かしておるか。ここまで来て儀式を中断するなどあるはずがなかろう。既にお主達はワシの部下達をたんまりとやっつけておる。世界支配のためにもやめるわけにはいかん。


 む? ほう。金ならあると申すか勇者よ。なかなか話が分かる男のようだ。しかし、もう少し遠回しな表現を用いたほうが良いとワシは思う。ド直球過ぎるというか、なんというか。


 まあそうじゃろうなぁ。だってお主ら三人、みんな王子と王女だし。腕っ節の強い戦士タイプのイケメン王子、少々抜けてはいるが物理も魔法もなんでもござれの王子。そして紅一点の魔法少女……じゃなくて魔法王女か。


 ワシは断じて交渉に応じるつもりはないぞ。仲間をたくさん殺されておるのだからのう!

 ……だが、少し話を聞く分にはいいかな。で? いくらくらい?


 む……勇者よ、今三百Gと申したな。いやはや、これはこれは! ワシとしたことが驚いたわい。まさかこの大神官相手に三百Gとは。


 分かったぞ勇者よ。お主がそこまでの条件を出すのなら、今すぐ邪神復活の儀式を止めよう……などと言うかこの馬鹿者めが! その程度の金で何が交渉じゃ!


 今時幼い子供でも月のお小遣いは三千Gはあるのだぞ。何が悲しくて、子供の小遣い以下の報酬で手を打たねばならんのだ。


 なに? 悪かった、では一万Gで手を打ってほしいだと。はあー……勇者よ。お主はまだ金銭感覚がお子様ではないのか。世界が終わるかどうかの瀬戸際で、十代の若者が容易に手に入る程度の金額を掲示する奴がおるか?


 もっとデカデカとした、覚悟を感じさせるような額を交渉してほしいものだな。

 なに、ここに来るまでにカジノで負けたから、本当に一万Gしか持っていないだと?


 まったく、ギャンブルに飲まれてしまうとは情けない奴らじゃ。そんなんで国を取り仕切っていけるのか、甚だ疑問じゃのう。


 とにかく、邪神復活の儀式は粛々と進んでおるぞ。今神官どもが釜の中に色々と放り込んでおるだろう?


 トカゲの尻尾、サソリ、猿の○○、聖女の髪の毛、エロ本、大木の枝、りんご、エロ本。これらが邪神復活に必要な生贄よ。つまり、全てを放り込んだ今、止められる者はおらんというわけじゃな、ワシ以外。


 くくく! 勇者よ、焦っているな? ここしばらく見せない顔になっているぞ。確か冒険を始めて一ヶ月後、そこにいる王女をめぐって三角関係になった時期と同じ顔をしているわ。


 なに? どうしてそんなことまで知っているのかだと。我ら魔族の情報網を侮るでない。ありとあらゆることについて事前に調査済みだ。


 いやー、お主らときたらまさに青春を地でいくような旅路をしていたな。途中で冒険者としての活躍を見ているのか、恋愛ものを見ているのか分からなくなったほどじゃ。


 物理脳筋王子は、柄でもなく浜辺をバックにキザなセリフをほざいてみたり、中途半端マイペース王子はカフェデートで急に美青年っぽい雰囲気を醸し出してみたり、いろいろとやっていたのう。


 暇さえあれば王女をデートに誘っておったようだが、実は今も決着はついていないと見える。まあ要するに冷戦状態じゃな。


 この戦いが終わればどちらかが勝負を仕掛けるに違いな……おっと! どうした!? 勇者よ、唐突に剣が光り始めたな。まさか、王女ともう一人の王子の魔法力を、全て剣に注いでおるのか。かくなる上は全身全霊を持って、この結界を破壊しようというわけじゃな。


 ククク! 甘い、触れてほしくない話題に触れられて墓穴を掘りおったわ。その程度の剣で、我が結界が破られるわけがなかろうが!


 あれ? パリーンといきよったな。な、なんと! ワシの結界を一撃で破壊しよったか!


 ぐぬぬぬ、小癪な。やはりお前らはあのロリコン勇者の子孫……いやなんでもない。今の発言は忘れてよろしい。お主らの為じゃ。


 ほほう、どうやら勝利を確信しておるらしい。だが甘い。甘いぞ勇者ども。

 これを見るが良い!


 フハハハハ。ローブを脱ぎ去ったワシの姿に驚愕しておるようじゃな。いかにも、ワシは元々大神官などではない。百年以上前、勇者により次元の彼方に吹き飛ばされた魔王だ!


 流石のワシも次元の彼方まで飛ばされてしまっては、もはや死ぬしかないかと思っていた。だが、この程度で我が野望潰えてたまるかと、自力でこの世界まで戻ってきたというわけじゃよ。


 いやー、本当に大変じゃったわ。一年くらいかかったかと思ったら、この世界では百年も経っておった。だから知り合いなどもう誰もおらん。ちなみにワシの城も無くなっておる。寂しくて死にそうだったわ。


 途方に暮れたワシは一から活動を再開したというわけじゃ。何? どうして邪教の神官なんて道を選んだのかじゃと?


 まったくお前達ときたら、全然分かっておらんのう。答えは簡単、儲かるからじゃ! そもそも邪神の生贄にエロ本などあるわけなかろうが。全部ワシが頭の中で考えた設定に過ぎんわ。


 もうここでカミングアウトさせてもらうが……ワシは鼻から邪神など復活させるつもりはない。ただの時間稼ぎがしたかったのよ。


 さあ、この杖を見よ! お前達勇者の子孫であるなら、この魔法が何か分かるな?


 なに、分からんだと? このやり取りには既視感があるな。やはりあの陰キャ勇者の子孫か。これはのう、どのような存在をも確実に仕留める、万能即死魔法じゃ!


 しかしこの魔法の発動には時間がかかるものでな。巧みな話術で時間を稼ぎ、更には邪神の復活をチラつかせ貴様らを焦らせた。そして切り札とも言える合体技を使わせたというわけよ。


 フハハハ! もうお前らに勝ち目などない。さあ、これでも喰らえ———っと、どうした神官ども!? 何を焦っておるのか。


 な、なに! 邪神が降臨したじゃと!? まさか本当にエロ本に釣られるとは。


 ふん、まあ良い。これで勇者どもが勝利する可能性は万が一にもなくなったというわけだ。魔王たるワシと邪神が手を組んだ以上、完全なる絶望を抱く他ないぞ。


 おや、邪神はやる気まんまんのようじゃのう。クックック! 思いきり息を吸い込んでおる。あれはどんな存在をもチリひとつ残さず消し去ると言われる、破壊の息じゃな。


 こうなればワシが手を下す必要もあるまい。


 おや……?


 どうした邪神よ。お主の体勢的に、勇者どもというよりワシを狙っているように見えるが?


 あ、ちょ! ちょっと待て! ワシは味方じゃ! 早く勇者どもをぬわーーーーっ!!?

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邪神を復活させようとしている悪い神官がいたので、やめないかと交渉してみた コータ @asadakota

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