015 買い物

 四人は宿屋専門学校の魔道具店に足を運んでいた。

 剣などを扱っている武器屋と比べると大きさが二倍ほどある。様々なスクロールや魔機類、魔道具など様々な物を取り扱っているためだ。

 王都にはスクロール専門店や魔機専門店などもあるが、宿屋専門学校では一店舗にまとめられている。


「俺とパティは見てもよく分かんねーから適当に店ん中ぶらついてるわ」

「うん。わかった」


 アレスはパティを引きつれて奥へ入っていく。そして振り向いてネロエにウインクを飛ばした。

 ユーノスは気付いていないがネロエはしっかりとそれを見た。

 最近ネロエはアレスが実は凄い人なのではないかと思い始めている。喧嘩の仲裁に入ったり、冗談を言って場を和ませたり。――気を使ってユーノスと二人っきりにさせてきたりと。

 まるで心を読まれているような感覚。ネロエは一言もユーノスが気になるなど言っていないが、この行動は気持ちを知っているとしか考えられなかった。


「じゃー二人で見に行こうか」

「は、はい」


 こんな事をされたせいで逆に意識してしまうネロエは耳が熱くなった。

 光を反射するほど磨かれた白い石床の店内。天井から提げられている『魔機本体コーナー』『交換用畜魔装置コーナー』と書かれた案内を見ながら進む。

 そして目的の『魔素銃コーナー』を見つけた。

 壁一面にディスプレイされている様々な魔素銃は圧巻。

 片手で扱える小さな銃から両手で持つタイプの銃、奥の方には運ぶことすら困難と思われる大砲サイズの物まである。

 他にも弾やカスタムパーツ、練習用の的など、小物にいたっても充実した品揃え。銃以外の遠距離武器もいくつかある。


「これとか見て下さい! 弓タイプのものです! これに至っては銃ではないと思いますが」

「ホントだね! 凄いや! なんだかワクワクしてきた」


 お互いに魔道具好きであるためここは宝の山である。二人でキャッキャしていると男性店員が近づいてくる。


「何かお探しですか?」


 エプロンを付けた中年の店員。ユーノスもどんなものを買えばいいのかは分からなかったため素直に聞くことにした。


「魔素銃を使おうと思っているんですけど、正直どんなの買えば良いか分からなくて」

「かしこまりました。フォーマンセルでのご利用でよろしかったですか?」

「はい」


 店員から様々な質問を受けてユーノスは答えていくと、店員は思考する素振りも見せずにディスプレイされている棚から二丁の銃を取り出した。

 どちらも黒いハンドガンで片方の銃はグリップに魔素回路が彫りこまれている。もうひとつはリボルバータイプ。


「魔素銃は初めてという事でしたので簡単に説明させていただきます。この二丁の魔素銃ですが、回路が彫りこまれている方が実弾を使用する魔素銃です。引き金を引くことにより掌から魔素を吸いだして中で爆発を起こし、弾を発射する仕組みです。実弾タイプというやつですね。消費魔素は銃によって100から2000と違いが出てきますが、基本的に威力と比例すると考えて下さい」

「なるほど。もうひとつは?」

「はい。こちらは簡単に言うと魔法を撃つ魔素銃です。ここを見てもらえますか?」


 店員はそう言ってシリンダー部分に指を当てる。よく見ると細かな魔素回路がみっちりと刻まれている。


「シリンダーに掌を当てて魔法を発動させることで、魔法を弾としてストックできます。それから引き金を引くと魔法が発射されるという魔弾タイプとなります」

「なるほどー」

「ただ、こちらは魔素の消費が激しいので、総量が多い方向けですね。――とまあ基本的にこの魔弾実弾共に拳銃、散弾銃、狙撃銃がありますので全部で6種類となります」

「僕は魔素が少ないので実弾タイプがいいかなと思っているんですが、実弾だとどれがいいでしょうか??」

「先程伺った内容では火力をお求めとのことですので――」


 店員はいくつかの魔素銃を近くのテーブルに並べた。

 拳銃は一発の消費ルケが100と500の魔素銃。

 散弾銃は一発の消費ルケが200と600の魔素銃。

 狙撃銃は一発の消費ルケが300と1000の魔素銃。

 この6丁が並べられた。


「とりあえずのおススメはこの6丁となります。お客様の総量が6000とのことでしたのでこの辺りが良いかと思われます、まず――」


 店員は説明を続ける。

 一発の火力は控えめだが扱いやすい拳銃。装弾数が多いのが特徴。100ルケと低燃費で手数を多くできる。逆に500ルケのものは手数を犠牲に高火力。

 散弾銃は拳銃よりは近距離での使用が求められ、サイズも大きいがその分破壊力がある。装弾数は2発。200ルケでも近距離で人型であれば吹き飛ばすことが可能。600ルケともなれば一撃必殺の威力となる。

 狙撃銃は長距離での命中精度と一点への高火力が期待できる。散弾銃よりもサイズが長く重い。単発式。取り回しを犠牲に最大火力を出せる魔素銃。300ルケでも1キロメートル先の的を狙うことが可能。1000ルケともなれば3キロメートルの射程距離となる。


「――ただ、ストッカーですと狙撃銃はあまり向きませんね。一応選ばさせて頂きましたが、戦闘時もスクロール設置などで動き回ることが多いと思うのでやはり拳銃か散弾銃の二択を推奨します」

「説明を聞いた感じ散弾銃がいいかなって思っています。200ルケでもっとサイズが小さいものってありますか?」

「ございます。――――こちらなどどうでしょう?」


 店員が棚から取った魔素銃はダブルバレルで引き金が二つ付いている。長さも半分程で短い。


「銃身をあえて短くしたソードオフショットガンです。ただ散弾銃は銃身の長さで命中精度も変わってきます。短くすれば弾の拡散が始まるのが早くなるためより近距離での使用が求められます」

「これなら腰に付けて持ち歩けそうだし良さそう! ネロはどう思う?」

「ボク達は対中型以上の魔物が課題ですから、散弾銃なら問題なさそうです。パシティアさんがクイックを扱えますし、接近も問題なさそうですね。いいと思います」

「うん。これにしよう!」


 その後ホルスターやスクロール類、回収用魔道具などを買った。帰りにマジックポーションも二つ購入した。



    ◇



 模擬営業開始から一ヶ月が過ぎた。

 赤字覚悟の思い切った買い物の成果もあり全滅回収は順調に行われていた。魔物ゴーレムも小型の雑魚ばかりであり、最初の大型ゴーレムが嘘かのようだった。

 パシティアやアレスの接客も板についてきており、調理以外全て任せてもほぼ問題ないレベル。

 そしてたった今チェックアウトしていったマンプク・ゴーレムの見送りを終えた。食事スペースには大量の食器が積み上げられている。


「すげーゴーレムだったな! 俺二回も食材買い出しに走ったぞ」

「一日中ご飯食べてましたね。名前通り過ぎてビックリしました」


 ずっと調理に追われていたユーノスがぐったりと腰を落とした。


「でも良かった。おかげでで少し売り上げが伸びたよ」

「――諦めてたけどよ、黒字になりそうなのか??」

「……恐らく無理かな。――ってかね、他の班もみんな赤字だよきっと。この黒字にするって課題は達成するの無理だと思う」


 ユーノスは一週間前の客を思い出していた。

 そのゴーレム達は四名パーティで来店し、部屋を一つ借りていった。そして、全滅。

 回収自体は難しいものではなかった。四人とも水場を想定して造られた戦闘訓練場ブルーで全滅し、波打ち際に打ち上げられていたからだ。魔物ゴーレムの姿はなく宿屋へ運ぶだけだった。

 しかし、パシティアの魔素総量では四人を全快させることはできず、渋々マジックポーションを二つ使って全快させた。

 一泊一名1万ポイントで、四名で4万ポイント。マジックポーション二つで8万ポイント。単純計算でマイナス4万。

 このようなパターンが二日続いた。

 一向に経費が減るばかりなのである。しかし、稀に今日のような全滅せずに食事ばかりしてくれる客もいる。これでプラマイゼロになる。


「宿屋って儲からないんだな。どうやって生活すんだよ? 従業員の給料だって考えなきゃだしやべーだろ!」

「本当にそうなんだ。模擬営業は給料が発生しないからいいけど、実際は無理だ」

「そういえばお前んちの実家とか一泊3000ゴールドだったよな!? どうなってんだよ!? 安すぎるだろ!!」

「確かに今となっては不思議だ。全滅回収の事を計算に入れなかったら全然大丈夫だったんだけどさ。冒険者は一週間に一回来る程度で殆どが旅行客だったし、食事目的のお客様も多かったから」


 ユーノスは立ち上がってエプロンを外して畳む。


「宿屋の事ってまだ色々隠された何かがありそうな気がするんだ。オベルジュコインを持ってたらマジックポーションが格安に仕入れれるとかさ。じゃないと無理だよ」

「なあパティ。マジックポーションって作れないのか? 安く作れたらそれが一番だぜ?」


 食器の片付けをしているパシティアがお盆を厨房の流しに置いて戻ってくる。


「それは無理ね。普通の回復ポーションとかは薬屋で作ったりしてるけど、マジックポーションだけは仕入れてたから。それと、勝手に作るのは禁止されてたと思う。作り方も材料も分からない。昔そんな話を聞いたわ」

「ぜってー宿屋絡みじゃね? 世界特級機密とかがあるくらいだしよ。『マジックポーションの作成方法は世界特級機密事項となっている』とかあのバアさんなら言いそうだ」


 アレスは学長であるプラト・デーモスの口調を真似て言った。


「バアさんって学長の事? 聞かれてたら退学にされるかもよ? ――まあちょっと似てるけどさ」

「だろ? 俺の物まねレパートリーに入れとこう」


 そうこうと談話をしていると次の客が来店した。

 革鎧を着て背中に大きな剣を背負っているゴーレム。受付にいたネロエは慣れた様子で部屋までの案内を終える。


「これは全滅するパターンだな」


 アレスが両手を開いてヘラヘラと口にする。ネロエにキリっと睨まれると口をつぐむ。

 一ヶ月も経てば服装や装備している武器で全滅するかどうかがある程度判断できるようになっていた。

 今回のように武器を持っていれば数時間後には訓練場のどこかへ向かい全滅する。今のところ冒険者風のゴーレムは必ず全滅している。

 武器を持っていなければただの宿泊か食事だけで終わることが多い。


 案の定ゴーレムはすぐに客室から出てくる。ネロエがすぐさま礼をした。


「ケンシ・ゴーレム様お出掛けですか?」

「グリーンにて魔物討伐の任を受けていてナ。行ってくル」

「加護のネックレスはお持ちですか?」

「もちろんダ」

「では気を付けて行ってらっしゃいませ」


 アレスもネロエと同じように礼をして見送った。

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