010 仕事帰りの会話

 ヨモギ草とドクダミ草の束を背負ったユーノスを先頭に四人は帰路についていた。

 黒焦げから治癒術によってすっかり回復したアレスはずっと文句を垂れているが誰も相手にしていない。

 パシティアはゴブリンから回収した魔石の入った袋をニヤニヤしながら頬ずりしている。

 ネロエは考え事をしながら疑問を口にした。


「あの。なんでゴブリンが襲ってきたんでしょうか?」

「そんなの知らねーよ。あの後ゴブリンシンボル探したけど無かったし」

「縄張りに入っていないのに温厚なゴブリンが襲ってくるっておかしいですよね? こんな話聞いたことがありません」

「皆無事だったんだしいいじゃない! 私はこの魔石が何ポイントになるのか気になってしょうがないわ」

「バイトギルドが冒険者ギルドみたいに買い取ってくれるのでしょうか?」

「ダメだったらそれを取っておいて、ゴブリン討伐の仕事があったらそれを使えばいいんじゃないかな?」

「ゴブリン討伐なんて聞いたことないぞ? そんな仕事あるのか?」

「その時は私が冒険者ギルドで換金してくるわ! そのお金で遊びましょ!」

「お前な。それは一応皆で手に入れた魔石なんだからな。もっと装備とかスクロールに使うべきだろ。これから稼ぐとき外に行くわけだし」

「アレスにしてはまともなこと言うじゃない! でもチャームは絶対買わないからね!」

「分かってるよ!」

「討伐の仕事も視野に入れるのであれば、スクロールかユーノス君の武器でしょうか?」

「僕の武器?」

「はい。今回は運よくマインのスクロールで事足りましたが、これは相手がゴブリンだったからです。獣系の魔物の場合、動きが不規則なので罠タイプのスクロールは向きません。今日は持ってきていないみたいですが、武器はなにが扱えますか?」

「……僕は実践で武器を使ったことがないんだ」

「こいつはいつも魔道具と指示出しがメインだったもんな。それに商業科だったし」

「なるほど。――マシンナークラスの授業では戦術についても習うのですが、ストッカーは武器や投擲アイテム、魔道具、魔法を使って援護する第二のアタッカーだと」

「うん、それはストッカークラスでも習ったよ。でも僕、剣とか斧とかで戦うの向いてないと思うんだ。遊びでアレスと剣で勝負したことあるけど一度も勝てなかったし」

「ふふーん。そりゃ俺は天才剣士だからな」

「いや、あんたは天才殴られ屋でしょ」

「うるさいなぁ。ほっとけ」

「――となると、遠距離武器でしょうか。魔素銃とか格好よくて良いですよね!」

「そういえば見学のとき先輩が使ってたのを覚えてる。覗き込んで撃つ長いやつ」

「きっと狙撃魔素銃ですね。あー、ボクも撃ってみたいです。ガチャって構えてバーン! って」

「撃ってみればいいじゃない。魔素銃の店に行けば試し撃ち出来ると思うし」

「……ボクは魔素が無いですから無理です。実弾タイプでも魔素を使った爆発で飛ばすので、一発撃つのに最低でも100ルケは必要なんです。高威力の実弾タイプなら一発1000ルケの物もあるってカタログで見ました」

「そうだったのね」

「魔素銃か、確かに非力な僕でも威力を出せるしいいかも」

「昔親父から聞いた話なんだけどよ。昔の獣族は火薬を使った銃を愛用してたらしいぜ。魔素を使わない銃だから、火薬と弾さえあればいくらでも撃てたんだってよ。これならネロでも使えるんじゃね?」

「そんなものがあるんですか!? それなら確かにボクでも撃てそうです! どこで買えるんでしょうか?」

「いや、もう製造はしてないらしい。昔って言っても1000年以上昔だ。魔素銃は火薬を使わないから弾の製造コストだけでいいだろ? 逆に火薬銃は火薬分値が張ったらしいし、火薬の暴発もあったから廃れていったって親父が言ってた」

「そうなんですか……」

「でもよ! 北の大陸のダンジョンとか迷宮にならあるかもな!」

「北の大陸ってノースランドのことよね? 獣族の国があるっていう」

「そうそう! 獣族が昔火薬銃を愛用してたならダンジョン攻略にも使ってたはずだ! 運が良ければ見つかると思わねーか?」

「確かに可能性で考えればゼロではないですね。でもそれってボクが冒険者にならなきゃ手に入れられませんね」

「なに言ってんだよ? お前ら・・・は宿屋になるんだぜ?」

「――あ。なるほど。回収で潜る可能性がありますね」

「そういうことだ! 俺は元々冒専志望だったんだけどよ、スカウトでここに来た。でも宿屋になりたいんじゃない。ここで修行した方が強くなれるって思ったからだ」

「そうだったんですね」

「パティも俺と同じだぜ!」

「なるほど。色々合致しました。二人とも数値が高いと思っていたんですよ。宿専に来ている生徒の殆どは職業学校で商業科ですからね」

「だめだめ! こいつを褒めたらダメよ! すーぐ調子に乗るんだから。実際はその商業科達に追いつかれそうでビビってるのよ」

「おま! バラすなよ!」

「……でも、ノースランドですか。三年生になったらインターンで希望してみるのもいいかもしれません。獣族に会ってみたいですし」

「あーいいわね! 耳と尻尾触ってみたいわ!」

「それって獣族のおっさんの耳と尻尾でもいいのか?」

「それは嫌に決まってるじゃない! ネロちゃんみたいな可愛い子がいいわ」

「ユノ。スクロールの準備だ!」

「わ、わかった」

「やめてよ! 今は襲ったりしないから大丈夫よ」

「それは後で襲うってことでしょうか? ――ボクも護衛用のスクロールを視野に入れた方がよさそうですね」

「あのカタパルト式ってやつをネロの部屋の入口に設置しておくのはどうだ?」

「ちょっと! ホントに大丈夫だから! これ以上言うとヒールパンチよ!」

「おーけーおーけー、落ち着けパティ。どーどーどー」

「ふん!」

「あ! 関所が見えてきたよ!」

「やっと着きましたね。薬草集めもこんなに歩かなきゃいけないなら結構きついです」

「今回はアレスとパティがゴブリンにちょっかい出されたのもあるからね。でも、フォーマンセルの練習にはなったし良かったよ」

「だな」

「そうね。ネロのすっごい作戦で全部やっつけたし。私達って結構いいパーティーじゃない?」

「だな。まあ俺は黒コゲだったけど」

「これから僕達のパオンポイントはこのチームで稼ごうよ! チームナール荘!」

「その名前ダサくね?」

「じゃあどんなのが良い?」

「うーん。ネロの実家はなんか店だったりする? 武具屋とか薬屋みたいな」

「ボクの家は宿屋です」

「はいきまりー。商業カルテットです!」

「はい却下ー。それは職業学校で卒業したの!」

「トリオからカルテットになったんだからいいだろうが!」

「僕いつも思ってたんだけど、宿屋って商業なの?」

「一応準備品として回復アイテム類を扱っていたりして道具屋として機能もしてますから商業とも言えますね」

「じゃあ商業カルテットだね」

「ちょっと待ちなさいよ! それなら殆どの宿専の生徒は実家が宿屋だったりするから、みんな商業カルテットになっちゃうじゃない!」

「あー、言われてみればそうか」

「そうよ」

「じゃあチームナール荘だな」

「だね」

「はい」

「そうなっちゃうのね。――でもこれは仮にしておきましょう!」

「来週から模擬営業の授業もあるみたいだし、やるならこのメンバーでやりたいね」

「生徒がメンバーを決めれるならそうしたいですね」

「お、ネロは嫌じゃないみたいだな。昨日まではツンケンしてたくせに」

「ぼ、ボクは一言も嫌なんて言ってませんからね! ちょ、ちょっとパシティアさんがしつこかっただけです」

「おーおー顔が赤いぞ?」

「からかわないで下さいよ! 毎回マインの囮に使いますよ!」

「おっとそれは勘弁願おうか」

「大体、アタッカーなんですかもっとビシバシ魔物を倒してくださいよ! 剣にこんなダサいチャームなんか付けて、気取ってるんですか?」

「ユノー。この子こわいよー。俺の心をズタボロにしてくる」

「アレスがからかったのが悪いよ! 実際チャームもそんなカッコ良くないし」

「お前までー」

「私はちょっとカッコいいと思うわ。それレッドドラゴンの翼の形でしょ?」

「パティ! お前は分かってくれるか!」

「まあ、買おうとは思わないけど」

「そんなぁ」

「――あの。今日の夜ご飯なんですけど――ぼ、ボクも一緒に食べてもいいですか?」

「もちろんだよ!」

「よかったです! いつも良い匂いがしてて正直……羨ましかったです。お恥ずかしいですがボク料理が得意じゃないんです」

「うん。でも、もちろんポイント貰うからね! 食費」

「は、はい。きちんとお支払いします!」

「さすがユノ。そういうところ抜け目がないよな」

「実際食費ってどのくらい掛かるのよ?」

「うーん。今の感じでいくと一週間一人5000ポイント位かな」

「今日の稼ぎで全員の一週間分の食費ね」

「そうだね。しばらくは贅沢出来ない。揃えたい物も考えると平日に仕事もしないと」

「となると早めのランク上げが良さそうですね。今日で二つの仕事ですから、後14回同じことをすればDランクに上がりますね」

「ランクが上がれば難易度が上がる代わりにポイントも増えるな」

「はい」

「これって完全に冒険者の生活だよな」

「確かにそうね。――でも良かったじゃない! 入学する前はこんなことできるって思ってなかったし」

「シーツ畳みとか食器洗いを想像してたからなぁ」

「宿屋学でやってるじゃん。僕は宿屋学が一番楽しいな。次に魔道具学」

「俺は全部やだ」

「私は魔法学が楽しいわ」

「ボクは魔道具学と言語学が好きです」

「あんた全部ヤダとか言ってるとまた鼻ホジ剣士って言われるわよ!」

「それなー。もう言われてんだよなー」

「遅かったみたいだね」

「あー。やっとキャメロットに着きましたね」

「ふー。無料定期馬車の時間を調べようか」

「私が見てくるわ! ユノは少し休んでなさい。ずっと背負ってたし」

「ストッカーの練習だよ。――でもちょっと休ませてもらうね」



    ◇



 宿屋専門学校に戻った四人は、バイトギルドの裏手にある納品所にいた。

 まず目に入るのが大きな納品カウンター。大きな魔物の素材などを置けるサイズになっている。バイトギルド店員が受付用紙を確認しながらせっせと動いている。

 カウンターには様々な鑑定魔道具が取り付けてあり、納品物が正しいものかを判別できる。


 ユーノスがヨモギ草とドクダミ草の束をカウンターに置いて受付用紙を渡す。

 待っている三人はそわそわと待つ。

 皆初めての仕事だった。集めた薬草が正しいものだと分かっていても不安は残る。


「はい。こちら二つの納品完了です。――Pポイントの振り分けはどうしますか?」

「僕のカードに全額入れて下さい」

「かしこまりました。ではこちらの端末にカードをかざして下さい」


 カードをかざすと『パオン』と完了の合図が鳴った。


「これにて以上となります。お疲れさまでした」

「あの、仕事以外で魔物の魔石を交換ってできますか?」

「はい、可能でございます。こちらに魔石をお持ちいただければ、鑑定して相応のPポイントと交換いたします」

「ではこれをお願いします。ゴブリンの魔石37個です」

「かしこまりました。鑑定いたしますので少々お待ちください」


 ユーノスは振り向いて三人にオッケーサインを出すとパシティアとネロエがハイタッチをした。


「お待たせいたしました。全てゴブリンの魔石で間違いありませんでした。一つにつき800Pポイントですので、全部で2万9600Pポイントとなりますがよろしいですか?」

「はい」


 同じくユーノスのカードにポイントを入れてもらいバイトギルドを後にした。

 

「ゴブリンの魔石が2万9600ポイントになったんだけど。仕事も入れると4万9600ポイント」

「これ、毎回ゴブリンの方が楽じゃね?」

「まああんたはその都度丸コゲだけどね」

「今回は事故みたいな感じでゴブリンと戦ったけど、出来ればもう少し数が少ない魔物と戦いたいよね」

「そうですね。何かあってからでは遅いですし。今度ボクが近隣に生息する魔物とEランクの討伐内容を調べておきますね」

「おう、任せた! 俺とパティはそーゆーの苦手だしな。――っつー訳でだ、今日は肉食おうぜ肉! 初仕事完了祝いだ!」

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