第26話
「迷惑をお掛けしました。そこのお方も、無視してしまい申し訳ありません」
「ええ」
「構わないよ」
泣き止んだジュリアは今までの事が無かったかのように冷静に振る舞っていた。
さっきまでのジュリアはとても素直で可愛らしかったのだけど、いつも通りのジュリアがやっぱり一番魅力的ね。
それからジュリアに今まで何をしたかを聞かれたので、フランチェスカに話した内容をそのまま伝えた。
「オリヴィア様とエドワード様が治める国、とても楽しみです」
「ありがとう。期待に沿えるようにするよ」
「はい、エドワード様」
「では、次はマルゲリータですか?」
「ええ」
そして私たちはマルゲリータの部屋へ。
「お久しぶり、マルゲリータ」
「あら、オリヴィア様ですか。お久しぶりです」
部屋から出てきたマルゲリータは、一週間ぶりに友人に会ったぐらいの軽いノリで挨拶してきた。
確かに1週間ちょっとしか経ってないけども。投獄されたんだからもう少し心配してくれてもいいでしょうに。
でもマルゲリータだしね。
「知ってたの?」
今日の今日まで何も知らなかったフランチェスカがマルゲリータに疑問の目を向ける。
「うっすらとですけどね。お隣に居る男性がこの国の新しい王であるとか、オリヴィア様がその方と結婚したとか」
がっつり知ってるねこの人。いや、市民に公表しているから変ではないけど。
「それなら教えてくれても良かったじゃない」
とフランチェスカは文句を言う。確かにジュリアの事を考えれば言ってくれた方が良かった。
「ジュリア様の将来を考えるとそちらの方が良いと思いましたので」
「将来?」
「はい。ジュリア様は将来オリヴィア様の元で働くでしょうし、心も体も当時よりも強くなっていた方が良いでしょう?」
私の死を乗り越えて強くなるってこと?確かに強くなったんだろうけどさ、結構運が絡むよね……
でもマルゲリータなら的確に予測してもおかしくはないかも。頭良いし。
「そうかもしれませんね。おかげで覚悟は決まりましたから」
まあジュリアがそう言うならいっか。
「マルゲリータは元気にしていたかしら?」
「ええ。大半の生徒が居なくなりましたが、私たちの生活に大きな違いはありませんから」
「それなら良かったわ」
「はい。それとエドワード王。革命成功、おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
「3人共あっさりエドワード王を認めるのね」
貴族でも何でもない元使用人だった男がこの国の新たな王になったのに受け入れるの早くない?
客観的に見て結構な危険人物だと思うんだけど。
「オリヴィア様の選んだ相手ですから」
「フランチェスカさんの言う通りです」
「ええ。それにやっている事自体は正しい事ですから。真っ当に生きている貴族からすると恐れることはありません」
そんなものなのかな。多分罪を犯していない人が警察を怖がることは無いみたいな話に近いのかな。
当然私は怖い側ですけど。だって怖いじゃん。罪を犯してないけどもしかしたら捕まるかもしれないって気がするし。
「そう言われると嬉しいわね」
オリヴィア様という役フィルターが入っているのかもしれないけど、私という人間を認めてくれたみたいで気分がいい。
「オリヴィア様、これから全員の元を回る予定なのであれば、1時間後パーティ会場に来てください。しばらくしたら皆そこに集まる予定になっておりますので」
まさか私たちが今日来るって予測して集めてたの?それはもうエスパーだよね。心読んでるよね。
とか思ってたらマルゲリータが無言でにこっと笑った。綺麗だなあ……
じゃなくてその笑顔、さっきの思考まで読んでるよねあなた?
「そう、分かったわ」
私は必死に湧き上がる疑問を押さえつけてオリヴィア様っぽい返答をした。
「エドワード様、この後は生徒会長に会いに行くのでしょう?」
「そうだな」
「今頃は自クラスの訓練場に居る頃ですので、会いたいのであればそちらに向かう事をお勧めします」
「ありがとう」
「では私たちは先に会場に向かっていますね」
「え?私たちは」
「そうよ、マルゲリータ」
「お願いしたいことがあるので、着いてきてください。それでは」
マルゲリータは二人を連れてパーティ会場へ向かって行った。
「本当に生徒会長に会いに行くのですか?」
何も聞いてなかったんだけど。
「ああ、理事長や校長等が居なくなった今、学園のトップは生徒会長だからな。今後の学校運営について話し合える相手は彼しかいない」
なるほどね。確かにそれならトップだわ。他の教員より学校運営に関しては信頼できそうだし。
「では行こうか」
私たちはマルゲリータに言われた通り、寮を出て訓練場へと向かった。
「ふっ、はっ!」
訓練場の扉を開くと、中で生徒会長が一人で訓練をしていた。
「誰だ!?!?!?」
入ってきた私たちの気配に気づいた生徒会長は、咄嗟に私たちに向けて木剣を向けた。
「私は1年5組のオリヴィア。そして隣に居るのがこの国の新たな王であるエドワード・オリバーよ」
「失礼。敵襲かと思ったもので」
生徒会長は木剣を地面に置き、敵意が無いことを示した。
「今から時間はあるか、ヴォイドヴィッチ殿」
「はい。ただ訓練していただけですので」
「では早速、本題に入ろう。約一週間、あなたが維持してきたこの学園を廃校にしようと考えている」
え?
「そうでしょうね。予想はついていました」
生徒会長もあっさり受け入れちゃうの!?
「それは本当なのですか?」
流石に黙っているわけにはいかなかった。若干オリヴィアという人物像から離れた気がするけど、今回は特別ということで許してください。
「ああ。もうこの学園を残しておく価値は無いからな」
「それはどうしてでしょうか」
「貴族が大きく減ってしまった上、今後有能な市民を登用して国を運営していく都合上、貴族が交流する為だけの学校を特別に残す必要は無い」
「では学びの場所はどうなるのですか?」
「各々が家でやれば良いだろう」
私の質問に対し、さも当然かのような口調で答えるエドワード。なんか目の前の生徒会長も頷いているし。
「それで問題なく学習が出来ると?」
「ああ。ヴォイドヴィッチ殿もそう思うだろう?」
「はい。自分のペースで進められる分、学校で学ぶよりも効率的かと」
この二人、マジで言ってるの?
「それが可能なのは一部の限られた天才に限ります。いくら設備が整えられていようと、出来ない人も居ます」
「そうなのか?」
心底不思議そうな表情をする二人。天才すぎるよ。
「はい。独学を始めるにもある程度の能力が必要です」
初めて読んだものを自分の頭で理解するのって割と高度な事だからね。それにこの世界だと魔法を使った実践での戦闘とかいう教科書すら存在しないものまで付いてくるんだから。
独学だけで魔法を勉強したら絶対暴発で家吹き飛ばす人とか出てくるよ。
「普通に見れば分かることでは無いですか?」
「大半の方は分かりません。それに実戦はどうするんです?参考になるものすらありませんよ?」
「確かにそうだな。相手が居ないのは難しいか」
「はい。独学では型まで学べてもその活かし方が分からなければ弱いままです。それに、貴族の為に開いた学校だから潰すのなら平民の方を入学させれば良いではないですか」
有能な市民を発掘しやすくもなるし、環境面の格差も減らせるしね。
「お言葉ですが、教師は生徒以上に減っていまして、1割も残っていませんよ?」
「それに関しては貴族の生徒の皆さんが教師をすれば良いと思います。市民の大半の方は基礎の基礎から学ばないといけないでしょうし、教える為のハードル自体はかなり低いはずです」
多分私でも教えられると思うし。
「なるほど。オリヴィアの提案を採用しよう。ヴォイドヴィッチ殿、市民に基礎を教えられる生徒を何人か見繕っておいてもらえるか?」
「はい。1週間以内にある程度の数を揃えておきます」
「ありがとう。私は入学したい生徒を募集しようと思う。これで伝えたい話は終わったな。時間を取らせてしまってすまない」
「いえ、新しく国を立て直している最中、私たちに目を向けてくださってありがとうございました」
「それでは、また」
「さようなら」
私たちは訓練場を後にした。
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