第25話
「はい、何でも!」
オリヴィア様の言う事を聞かないわけないじゃないですか!
「私の事はオリヴィアではなく、エドワードって呼んで欲しい」
「良いんですか?」
つまりオリヴィアって名前を捨てるってことですよね?
「うん、その名前に思い入れはないから」
「分かりました」
そっか、大切な友達を殺した相手に付けられた名前だもんね。
「あと、2人で居る時はもっとフランクな口調で話してくれない?」
「えっ」
オリヴ、ではなくてエドワード様にタメ口で話すだなんて……
「私たち結婚したんだよ?敬語で話すなんて変じゃない?」
「確かにそうですけど……」
「私からのお願い、聞いてくれる?」
エドワード様からそんな微笑みをされたら受け入れるしかないよ。
「はい、頑張ってみま、る」
「ありがとう」
その笑顔はずるいよ、エドワード。
「美咲さん、学校に行きましょう」
翌日、エドワードにそんな提案をされた。
そういえば最近のごたごたのせいで学校の事を忘れてた。けど、
「学校って今やってるの?」
大半の貴族が立場を追われ、労役に服しているから生徒も教師も足りてないから運営出来てないと思う。
「やってないね。だけど生徒と使用人の方々は学園の寮に取り残されているから、どうにかしないといけないのよ。それに、5組の皆とも会いたいでしょう?」
「うん、会いたい」
前に会ったのはデヴィッドとかいう馬鹿に断罪された時だったし、結婚発表の時も貴族は誰も来ていなかったから心配させているはずだもんね。
「じゃあ決まり」
そう言うとエドワードは私にお姫様抱っこをしてきた。
「エドワード!?!?」
「こうした方が早いから。そろそろ美咲さんも慣れて」
「無理ですけど!?!?」
そんな簡単に慣れられるのなら私はオタクになってないよ!無茶言わないでよ!
しかし私の心からの叫びもエドワードには通じず、そのまま学校まで運ばれた。
「とりあえずあの3人の所へ向かおうか」
学校の前に着いたエドワードは私を降ろし、手を差し出してきた。お姫様抱っこの次は手繋ぎですか。
「ごめんなさい、少し休ませて」
手を繋ぐ方がまだマシだけど、今は無理です。身体的には全く疲れてないんだけど、精神的にかなり疲れたから。
せめて5分だけは休ませて。
「仕方ないなあ」
エドワードはそんな私に微笑みかけながら、回復を待ってくれた。
「ありがとう。では行きましょうか」
「そうだな」
回復した私は絵川美咲からオリヴィア・エヴァンスになってから学園に入った。
「オリヴィア様!!!!!無事だったんですね!!!!」
最初に訪れたのはフランチェスカの部屋。私の顔を見た瞬間に感極まって抱き着いてきた。
「ええ、無事よ。心配してくれてありがとう」
私はフランチェスカを優しく受け止め、抱擁し返した。
「これまで何をされていたのですか?」
「それはね……」
私は表向きに話せる範囲で経緯を話した。
「というわけで新たな国王である彼の妻になったのよ」
「え、この方が!?オリヴィア様の使用人でしたよね!?!?」
この子、私の使用人までちゃんと把握しているのね。ほんのわずかしか顔を見る機会なんて無かった気がするけど。
「立場上はね。そちらの方が都合が良かったから」
「そうとは知らずに無視して申し訳ありません。オリヴィア様が無事だったことに意識を取られすぎていました……」
「別に構わないよ。あんな別れ方をしたんだから当然だよ」
エドワードは心なしか嬉しそうな表情をしているように見える。
「ありがとうございます」
フランチェスカはホッとした表情で礼を言った。
「では次は……」
「ジュリアでお願いします」
距離的に近いのはマルゲリータだったのだが、フランチェスカに食い気味にお願いされてしまった。
「分かったわ。フランチェスカも来て頂戴」
「はい!」
何か事情でもありそうだし、フランチェスカの提案通りジュリアの元へ向かう事にしよう。今日一日は学校に居ていいらしいし。
「ジュリア!私、フランチェスカよ」
ジュリアの部屋に辿り着いたフランチェスカは、扉をドンドンと叩きながらそこそこ大きな声で呼び出した。
あまり貴族らしくない行動だが、かなり慣れた手つきだった。フランチェスカは貴族の誇りを大事にする子だからかなり違和感がある。
「フランチェスカさん、何の用でしょうかって、オリヴィア様ですか?」
扉を開けたジュリアは私を見た瞬間に大きく目を見開いた。
「ええ。オリヴィア本人よ」
「無事だったんですね。てっきりあの爆発で亡くなっていたのかと……」
あの爆発というのは革命軍の攻撃の話かな。革命軍が気を遣ったから主要な建物は殆ど破壊されていないのだけど、牢屋含め老朽化が進んでいる所は衝撃に耐えきれずに崩壊してしまったものね。
貴族は私とエドワードの婚姻発表の時には居なかったし、生き埋めになったと考えて当然かもしれない。
「早く伝えていれば良かったわね。ごめんなさい」
「いえ、オリヴィア様も事情があったのですよね。こうやって直接会いに来てくださっただけで嬉しいです」
と声も表情もかなり落ち着いているジュリアなのだが、目から涙がツーっと流れていた。
「この子、オリヴィア様が居なくなったことに一番ショックを受けていたんですよ。私にもっと発言力があれば、もっと強ければあんなことにはならなかったって」
だからフランチェスカはジュリアの元へ行くように促したのね。
「フランチェスカさん」
「今日くらいは良いじゃない。弱さを見せたって」
「はい。オリヴィア様、無事で、良かった、です」
ジュリアは膝から崩れ落ちて泣き始めた。強がっていたのね。思い返してみれば冷静なジュリアが私の隣に居るエドワードの存在に気付かないなんてことは無いものね。
私はフランチェスカに促され、ジュリアを胸元へ抱き寄せ、ポンポンと背中を叩く。
「良い友人を持ったんだね、オリヴィアは。私には出来なかったことだ」
その光景を見たエドワードの口調は優しいものだったが、どことなく哀愁を感じる。
良い友人って。あなたが引き合わせた子達でしょ。
「私ではここまでの関係を結べなかったんだよ」
ジュリアを抱きしめていて表情が見えない筈なのに、当然のように私の思考を読んだエドワードはそう続けた。
え、エドワードが?
不思議に思った私は記憶を遡る。
思い返してみれば、学園に来たタイミングで仲の良かった生徒が一人も居なかった。取り巻きの一人や二人いてもおかしくないのに。
もしかして、ゲームの時にオリヴィアの取り巻きに固有名詞が一つも使われていなかったのも……?
マリーを失ったことが本当に尾を引いていたみたいだ。確かに、あの年齢で友人を殺されてしまったらね……
後で優しくしようと心に決め、今は目の前に居るジュリアが泣き止むまで抱擁を続けた。
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