第24話

 どうしてその女の名前が?


「ええ、その殺された少女の名前がマリーよ」


「じゃああのマリーって、でも殺されたってことは違う?どういうことなの?」


 死んでいるのであれば違うマリーよね。でも、ここで言うってことは……?


「あのマリーはそのマリーだけどマリーじゃないわ」


「つまりどういうことですか?」


「アレはマリーが成長したらどんな風になるのかを想像して私が変装した姿よ」


「ってことは私、何て酷いことをしてしまったのでしょうか。その、ごめんなさい……」


 オリヴィア様と、オリヴィア様の大事な人を同時に虐めようとていたわけよね。


「構わないわ。そもそもあなたはマリーに対して何もしていないじゃない」


「でも……」


 マリーに憎しみを持ってしまった時点で私は大罪を犯しているも同然だった。


「そもそも、マリーを直接攻撃する機会なんていくらでもあったのに、あなたはそうしなかったじゃない」


 確かにそうだけど、


「あれは実行する時期じゃなかったり、既に酷い目にあっていて私が手を下す必要が無かったりしただけです」


 単にタイミングが悪かっただけで、何かをしようとする気持ちはあった。


「そうやって結局憎しみを持った相手でも理由をつけて害することが出来ないところも好きなのよ」


「は、はい……」


 そんなことを言われたら否定なんて出来るわけがない。



「これで私の昔話は終わり。これ以上は私だけの思い出にしておきたいから話さないわ」


「はい、話してくださってありがとうございました」


「で、次の話になるんだけど、美咲さんは地球に帰りたい?」


「え、帰れるんですか?」


 こういうのって基本的に一方通行なものだと思ってた。


「勿論よ。帰れない所に呼び出すのはいくらなんでも相手に失礼じゃない」


 流石オリヴィア様。


「でも私、オリヴィア様と結婚したじゃないですか」


 私はオリヴィア様と結婚するという私にとって最高の幸せを手に入れているのにそれを放棄して帰るだなんて。


「あら、私の方を選んでくれるのね」


「勿論です」


「そう、嬉しいわ。5億円の宝くじを当てて悠々自適な生活を送る権利を放棄して、私の為にアニメも漫画も無い上に王妃という責務を負うことになるこちらの世界を選ぶなんて」


 ちょっと待って。


「今5億円当てたって言いました?」


「ええ、言ったわよ」


「私、人生で一度も宝くじ買った覚えないんですけど」


「そうね、でも絵川美咲さんは宝くじを買ったのよ。ほら」


 オリヴィア様は魔法でスクリーン状の薄い氷を空中に張り、その上に映像を映し出した。


「これは、私ですか?」


「ええ」


 そこに表示されていたのは地球に居る私。


 何も入っていなそうなリュックを背負っている所を見るに自転車に乗って近所のショッピングモールに買い物に行く所かな。


 予想通りショッピングモールに着いた私は駐輪場に自転車を停め、中に入るかと思いきや、入り口の隣にあった宝くじ売り場に向かった。


「え?」


 そしてそのまま私は宝くじを一枚だけ購入し、財布に入れてからショッピングモールに入っていった。


「ほら、買ったでしょ?」


「ほらじゃないですよ。こんな記憶一切無いんですけど。そもそも宝くじを買うなら友達と一緒に買いに行きますよ」


 そんな買い物に行くついでみたいな感じで買うわけがない。


「でも絵川美咲は宝くじを買ったのよ。間違いなくね。そして、これを見なさい」


 映像が切り替わり、今度は家に居た。何やら緊張した面持ちだ。


『お願いします!当たってください!10万円で良いので!』


 私はそう言いながらパンパンと手を叩いていた。いかにも私がやりそうな行動だ。たった1枚しか買っていないのに強欲すぎる。そもそも私はそんなことやってないけど。


 そして私はパソコンを立ち上げ、宝くじの当選番号をネットで検索した。


『えっと、当選番号は、1671…… ってどふぁむごっ!?!?!?!?』


 なんか私女子として出してはいけない声出しちゃってるよ。これオリヴィア様に見られてるの凄く恥ずかしいんだけど……


『当たった!?!?!?当たったよ当たった!!!!嘘嘘嘘嘘嘘!!!!!!!!』


 私は机や家具が周りにあることを一切気にせずに飛び回り続けていた。本当に5億円当たっちゃってるよこの人。


「というわけで絵川美咲さんは見事5億円を獲得。残りの人生は自由気ままに生きられるようになったのよ」


「いやいやいや。こんな重大事件を忘れるわけないですよね」


「そうね。あの子は絵川美咲の代理だから」


「代理?」


「ええ。肉体は美咲さんそのものだけど、中身は美咲さんじゃなくて、私がそれっぽく作った魂よ」


「オリヴィア様が作った?」


「ええ、あなたの事を思いながら作ったのよ。完成度高いでしょ?」


「はい、恥ずかしいくらいに完璧です」


 怖いくらい何から何まで私そのものでした。


「でも、何のために?」


「美咲さんの周りに迷惑をかけないようにって配慮もあるけど、一番は美咲さんが地球に戻るって選択肢を取った場合に、何事も無く日常に戻れるようにする為よ」


「オリヴィア様……」


 何から何まで配慮してくれていたんだ…… 好き。


「ちなみに宝くじは私の為に頑張ってくれたほんのお礼よ」


 ほんのってレベルじゃないんですが。人生が180度変わるんですが。


「まあ、それも美咲さんには意味なかったわね。私を選んでくれたんだから」


「え、あっ、その……」


 オリヴィア様と一緒になれることは本当に幸せなことなんだけど、それはそれとして、今5億円をドブに捨ててしまったという事実にショックを隠せない。


 毎日たくさんアニメを見て、漫画を読んで、豪遊する日々が……


「あら?何か不満でもあったかしら?」


「い、いえ!そんなことはありません!」


 今の私はとても幸せ今の私はとても幸せ今の私はとても幸せ……


「やっぱり可愛い。ところで美咲さんにお願いがあるのだけど、良い?」

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