第27話

「そろそろ時間ですし、パーティ会場に行きましょう」


「いや、私は良い。オリヴィアだけで行ってくると良い。生徒として過ごせる最後の時間だろう」


「最後?」


「ああ。王妃が生徒として学園に通うわけにはいかないからな」


 そういえばそうだよ。公務で忙しいだろうから毎日通学する暇なんて無いし、ただの王族ならともかく王妃が生徒だなんて先生がやりにくくてしょうがないよね。


「それもそうね。ありがとう、行ってくるわ」


「ああ、行ってらっしゃい」


 私はエドワードと別れ、一人でパーティ会場に向かった。



「「「オリヴィア様、今までありがとうございました」」」


 会場に着くと、クラスメイトのそんな声で出迎えられた。


「ありがとう、皆」


「今日はオリヴィア様がこの学校の生徒、そして私たちのクラスメイトとして過ごす最後の時間です。楽しくお別れしましょう」


 皆が事情を知っている事は置いておくとして、マルゲリータさん、準備良すぎないかな?


 何でこんな完璧なパーティをセッティングしちゃってるのさ。


 中央にある大きなケーキとか絶対1日とかで準備出来ないよね。その上で賞味期限も短いし。やってくる日程を予測していたにしても思い切りよすぎないですかね。


「それでは早速乾杯でもしましょうか。それでは王妃になったオリヴィア様、どうぞ」


 えっ……


 今までの人生で乾杯の音頭を取ったことなんて無いんだけど。


 私そんな気の利いた発言なんて出来ないんですが。


 でも皆は私の発言に期待しちゃってるし……


「私の為に集まってくれてありがとう。今日で正式に私はここから居なくなってしまうけれど、私は皆の事を大切な友人だと思っています。だからこれからも機会があればあなた達と関わっていきたいと思っているし、皆も私と出会ったら気軽に話しかけて欲しいわ。学生としては最後でも、金輪際会えなくなるというわけじゃないから、今日は気楽にパーティをしましょう。乾杯」


「「「乾杯!!!」」」


 私の乾杯の音頭に合わせて皆元気よく応じてくれた。


 大丈夫だよね?しどろもどろになってないよね?意味不明な事言ってないよね?


 まあパーティの音頭なんて普通は誰も聞いていないだろうし、大丈夫大丈夫。


 気にしたら負け!楽しくパーティをしましょう!


「「「オリヴィア様!!!」」」


 早速駆け寄ってきたのはジュリアとフランチェスカ、ではなく他の女子たち。


 フランチェスカが私の元へ送り出してきたみたいね。後方で腕組みしながら見守っているわ。


 自分はさっき話したばかりたから私を気にせずに行きなさいとでも言ったのかしら。本当にいい子ね。


「女王になるのではなく、王妃になるのは最初から考えていたのですか?」


「エドワード様はどんな方なのですか?」


「どこで知り合ったのですか?元々貴族の方では無いとお聞きしましたが」


「使用人は募集していますか?オリヴィア様のお世話を担当したいです!」


 そんなことを呑気に考えていると女子の皆さんから大量に質問された。


 基本的には王妃になったことと、エドワード関係の話ばかり。なんか一人変な子が混じっているけど。


 ただ、私という権力に擦り寄りたいとか今後の動きを決めるために情報を仕入れておきたいという邪な考えではなく、恋バナが聞きたいという何とも可愛らしい理由だった。


 うん、可愛らしい理由だよ。でもね、どう返答すれば良いんだろう。私もよく分からないままエドワードと結婚することになったし。


 出会った場面をでっちあげようにも私は実家に殆ど滞在していないから良い感じの場所が分からない。


 もう少し革命の方に興味を持ってほしかったな私。エドワードとの馴れ初めなんて大学時代にふらりと寄ったゲームショップでパッケージ買いしたとかいうこの世界で話せるわけも無いエピソードだし。


「使用人は確かに募集しているわね。ただあなたが満足できる額を払えるのかは分からないわ」


 というわけで簡単に答えられる変な子の話を最初に答えて時間稼ぎをすることに。


 なんかないかなんかないか……


「もしかして私が伯爵家の中でも裕福な方だからですか?」


「そうね。恐らくあなたが本来貰えるはずの給料の半分程度しか与えることは出来ないはず」


 確か使用人に払う給料は平均的な子爵家の令嬢が働いて稼げる額と同額らしいから、伯爵家の上位層には遠く及ばないのよね。


「それだけ貰えれば良いじゃないですか!!!オリヴィア様と一緒に居られて、なおかつ生きていくのに十分な額の給料を貰えるんですから!」


 あっ、この子私と同類だった。今までは普通の子だと思っていたけれどただ隠していただけだよ。


 私がオリヴィア本人じゃなかったら凄く仲良くなれた気がする。


「なら止める理由は無いけれど、一応学校を卒業してからにしなさい」


 推しの為になる仕事をすることで必ずしも幸せになれるとは限らないからね。


「分かりました!」


 良かった。私の言う事を聞いてくれる子で。


「えっ!ずるいです!私もなりたいです!」


「私も!」


「お願いします!」


 あれ?そんなに居るの?女子の半数位が名乗りを上げた。


 そんなに私って人気者なの?私ただのオタク系女子大生だよ?


 あっそうか。私オリヴィア様だもんね。声も顔もスペックも良いし、私が演じきったオリヴィア様って滅茶苦茶いい人だったもんね。


 私も好きだもん私のこと。


「嬉しいわ。でも、皆も卒業してから改めて決めなさい」


「「「はい!!!」」」


 何か上手い事収まったわ。もしかしたら馴れ初めとか聞かれないのでは!?


「そしてエドワード様との馴れ初めは!?」


 あっ、はい。知ってましたよ。


「エドワード様とは——」


 それから私は以前やったことのあるゲームのエピソードをいい感じに私とエドワードに当てはめてから話した。


 その結果、


「素晴らしい恋愛ですね」


「まるで一冊の小説を読んでいるかのような……!」


「私、感動で少し涙が出てきてしまいましたわ」


 滅茶苦茶ウケた。なんかやりすぎた感があるけど、この世界に原作は存在しないから大丈夫だと思う。多分。


 とにかく使用人と恋愛する系の恋愛ゲームとか漫画に凄くハマっていた時があって本当に助かった。


 それからも仲良く談笑していると、


「オリヴィア様、良いでしょうか?」


 背後からジュリアに声を掛けられた。


「その恰好は?モルガンまで」


 後ろにはジュリアだけではなく、モルガンも居た。戦闘用の服に着替えている上、表情が完全に臨戦状態だった。


 まさか革命が気に入らないとか!?


 良い人であっても、私の事を好意的に思っていたとしても、それは確かにありえる話だよね。

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