第14話

 マルゲリータは先程と同じサイクロンを海に向けて構築していた。


 先程と全く同じ量の魔力消費で放った筈なのに、5倍くらいの威力で勢いよく水を巻き上げていた。


「凄い、アレが私の魔法なんですね……!」


 マルゲリータはいつものキャラも忘れて無邪気に喜んでいた。やっぱり魔法が使えないことに色々と思う事があったのだろう。


「良かったわね」


 それを見て慈愛の瞳を向けるフランチェスカ。姉越えてママだよこの子。あまりにも面倒見が良すぎるよ。オリヴィア様の見る目は神ですか?いやそもそもオリヴィア様は神だったよ。


「はい!!」


 いつも穏やかでミステリアスなマルゲリータも綺麗で好きだけど、こうやって感情を爆発させて笑っているマルゲリータは可愛くて素晴らしいわ。


 でも少し気になる事があるのよね。


 私はこの世界の魔法教育をちゃんと知っているわけじゃないから間違っているのかもしれないのだけれど、こんな簡単に解決するような問題をムリーノ家が放置するかしら。


 貴族としての力が弱まっているなら分かるけれど、ムリーノ家は商売に成功して金も名声も十分にある。その上頭が良いのは明白なのだから無理にでも良い教師を付けていてもおかしくないはずなんだけど……


 まあ、こんな笑顔でいる所に水を差すのも無粋だし、いずれ別の場所で聞いてみることにしましょう。



 それから数日後、魔法実践の授業にて。


「うむ。今回の勝者はマルゲリータのようじゃな」


 今まで戦績が振るわなかった彼女が勝利したことにより、クラス中でも感心の声があがる。


「強くなったわね。マルゲリータ」


「はい、それもこれもフランチェスカ様のお陰です」


「私は少し教えただけよ。ほとんどはあなたの持っていた本当の実力よ」


 魔法が苦手という弱点を克服したマルゲリータは持ち前の頭脳を十全に発揮できるようになったようで、模擬戦でフランチェスカと対等に戦えるまでになっていた。


「本当に強くなりましたね。アレから少し明るくなりましたし、こちらとしても見ていて嬉しいです」


 それを見ていたジュリアはまるで自分が教えましたという口ぶりで話している。


 というのも彼女の頭の中では自分自身が主体となって教えており、フランチェスカはその補足を少ししてくれただけというように改ざんされているらしい。


 ちなみに一度正しい事実を伝えようとしたが、『何を言っているんですか。流石に騙されませんよ』と一蹴された。


「そうね」


 そんな経緯があったため私はツッコミを入れることは無く、スルーに徹していた。




「凄かったわ、マルゲリータ様。どんな練習をしたんですの?」


「もしかしてオリヴィア様やフランチェスカ様、ジュリア様に教わったのですか?」


「かっこよかったです!」


 授業の終了後、更衣室でマルゲリータは質問攻めを食らっていた。


「お褒めの言葉ありがとうございます。そうですね、皆様の予想通りあのお三方に直接教わりました。本当に感謝しかないです」


 何人もの女性に囲まれて少々大変そうにしていたが、満更でも無さそうだった。


「どんな事をどんな風に教わったのですか?聞かせてください!」


「やっぱりですか?良いお関係で何よりです!」


「素晴らしいです……!」


 マルゲリータが無難に返答すると、女性陣は一層盛り上がってそんな返答をしていた。


 最初に返した一人はまだ普通なのだけれど、他は明らかにクラスメイトへ言う内容じゃないよね。


 それは推しに対してコメントするオタクそのものだよ。


 確かに私たちの関係性は見た目も含めて全てが尊いのは分かる。だけどそれは毎日顔を合わせるクラスメイトだし、何なら将来的に政略争いの相手にとして敵になるかもしれないんだよ?情が湧く前にやめときな?もう手遅れ感あるけれどさ。


 まあそのお陰で私が常に3人と仲良くしていても嫉妬のような感情が向くことは無いから平和で良いんだけどね。



「一旦私だけで陣地を守るので、皆さんは陣地の外に隠れて向かってくる敵を背後から撃退してください」


「了解!」


 集団戦のリーダーであるマルゲリータが一気に強化されたことによって、マルゲリータを全力で守るという戦術を取らなくて良くなったおかげで、行動にかなり自由度が生まれていた。


「陣地に敵の姿が見当たらないけれど、攻撃人数が少ないので防御の方に戦力をかなり多めに割いているはずです。攻める方々はとりあえず奇襲に警戒して。常に背後を取られることを考慮してください」


「防衛の場合地の利はこちらにあるので、極力見晴らしの良い所まで引き付けてください」


 そのせいもあって私は集団戦の授業の際にかなりの対応力が求められるようになってしまい、オリヴィア様として生きるのに非常に苦しいラインをさまよっていた。


 一応エドワードにどんな戦いになるのかを叩きこまれてはいるんだけれど、絶え間なく変わり続ける戦況全てを覚えられるわけが無いため、私自身の頭脳をフル回転させる必要があった。


 戦いに慣れていない私には酷すぎるよ……



「疲れたよエドワード~」


 そのせいでただ覚えるだけで良かった今までの授業とは違い、精神にとてつもない疲労が溜まっていた。


「お疲れ様です」


「これはいつまで続くの……早く本番来ないかしら」


 最早マリーを戦闘で痛めつけようだとか邪な気持ちは完全に消え去っており、今はさっさとマルゲリータとの頭脳戦を全勝で乗り越えることだけしか頭になかった。


「もう少しの辛抱です。ここを乗り切ればしばらくはこのような事は起こりませんので」


「うう……」


 もう逃げ出してしまいたい。完璧超人の代理はあまりにも無理があるよ……


 でもオリヴィア様から直接のお願いだからそんなことはしたくないし……


「そうですね。少しでも精神が安らぐように、添い寝でもしてあげましょうか」


「そ、添い寝!?!?!?!?!?」


 添い寝って言ったんですかあなたは!?!?言葉の意味を理解してらっしゃいまやがりますか!?!?!?!?


「はい、その添い寝です」


 ここで今までで最高の笑顔とか要らないから!絶対悪い事考えてますよってことじゃん!!何をされるんですか????


「え、あっと、その……」


「あなたは力を抜いて、楽にするだけで良いんですよ」


 この人、手慣れているよ。あまりにも自然な流れでお姫様抱っこして私をベッドに寝かせたよ。


 ねえ、エドワードさん?


「今日はもう他の使用人は入ってきませんので、安心して眠ってください」


 ねえ、私と一緒のベッドに入ってきて何をするつもりなんですか?あ、花のような良い香り……


 あ、これは逆らえない……


「おやすみなさい」


 そして私はあっさりと意識を手放した。

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